ロシアを「直接的脅威」と明記してきた米NSS
トランプ政権のNSSから脅威表現が消える
米国にとって「最大の挑戦」とされた中国への表現もトーンダウン

トランプ大統領2期目の政権は、外交・安全保障に関する公式文書で、中国とロシアを「脅威」と位置づける表現を緩和した。台湾をめぐっても、中国の意向に沿うかたちで米国の立場のトーンを調整した。中国政府はまだ公式な反応を示していないが、ロシアはこうした動きを歓迎している。
米国はロシアによるクリミア半島の併合とウクライナ侵攻以降、公式な外交文書でロシアを主要な脅威として位置づけてきた。バイデン政権は2022年に発表した国家安全保障戦略(NSS)で、米国の優先課題を示す冒頭部分に中国とロシアを最優先事項として並べた。同年に公表された国防戦略(NDS)、核態勢見直し(NPR)、ミサイル防衛見直し(MDR)でも、ロシアを「当面の脅威」と規定していた。
しかし、トランプ政権2期目が公表した今回のNSSでは、ロシアを直接的あるいは具体的な脅威として名指しする表現が削除された。代わりに「多くの欧州の人々がロシアを実存的脅威とみなしている」といった程度の記述にとどまっている。米国との関係についても、欧州経済の安定と、戦争の意図せぬエスカレーションを防ぐために、ウクライナ国内での敵対行為を速やかに終結させることが米国の「核心的利益」だと述べるにとどまった。むしろロシアとの「戦略的安定」の回復を重視する表現まで盛り込んでいる。
このため、今回のNSSはロシアへの圧力強化というより、むしろ欧州の同盟国を牽制する狙いが強いのではないかとの見方も出ている。トランプ政権はロシア・ウクライナ戦争の終結交渉をめぐり、たびたび「欧州抜き」で米国が単独主導しようとする動きを見せてきた。そのたびに、ウクライナ支援を続けてきた欧州側が後から交渉に加わり、ロシア寄りだと受け止められた案を修正しようとする構図が繰り返されてきた経緯がある。
NSSには、欧州に対する米国の現状認識も率直に書き込まれた。欧州連合(EU)について、「欧州の創造性と勤勉さ、政治的自由、国家としてのアイデンティティを弱めている」と批判し、「このまま進めば、欧州大陸は20年後には今とは見分けがつかない姿になるだろう」との表現まで盛り込んでいる。
トランプ政権は中国へのけん制のトーンも下げた。バイデン政権は2022年のNSSで、中国を米国が直面する「最大の挑戦」と位置づけていたが、今回のNSSでは「中国」という名称を極力避け、「西半球以外の競合国」などの間接的な言い回しを多用している。
中国が特に神経をとがらせている台湾問題についても、中国側に有利と受け取られかねない表現となった。バイデン政権はこれまで「われわれはいかなる側による一方的な現状変更にも反対し、台湾の独立を支持しない」と明記していた。これに対し、今回のNSSでは「米国は台湾海峡における一方的な現状変更を支持しない」とだけ記し、「反対する」という強い表現や「台湾独立」に関する言及が外された。
米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」は、こうした変化について「中国を米国の『最大の挑戦』と位置づけてきた従来の路線から離れた、より穏健なアプローチだ」と評価している。保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のライアン・フェダシュク研究員はWSJに対し、「米国が台湾問題で『反対する』という立場から『支持しない』という表現に弱めたことは、中国にとって歓迎すべきメッセージだ」と指摘。「中国は今回の譲歩を次の交渉の出発点とみなし、さらに大きな柔軟性を求めてくるだろう」との見方を示した。
トランプ政権の方針転換について、ロシアは早速歓迎の意を表明した。ロシアのタス通信によると、ペスコフ大統領報道官は7日(現地時間)、「今回の措置は前向きな一歩だ」と述べ、「この種のメッセージは、これまでの米政権のアプローチとは対照的だ」と評価したという。
一方、中国政府はまだ公式な立場を明らかにしていない。ワシントンにある米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)のジェシカ・チェン・ワイス教授はWSJの取材に対し、「総合的に見れば、中国指導部は今回の国家安全保障戦略を、自国にとって比較的有利な方向への転換と受け止める可能性が高い」と分析している。
















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