「ただ乗りは許されない…日韓は国防支出を増やすべきだ」

ドナルド・トランプ大統領率いる米政権が、台湾有事の抑止をインド太平洋地域で最優先の安全保障課題に位置づけ、これに必要な同盟国の役割拡大と国防費増額を全面的に求める新たな国家安全保障戦略(NSS)を公表した。ホワイトハウスは5日(現地時間)、トランプ第2期政権の外交・経済・軍事全般の指針を盛り込んだNSSをホームページ上で公開した。米国が公式な安保戦略を示すのは、2022年のバイデン政権版以来3年ぶりとなる。
新NSSのアジア関連の章は、「軍事的優位を維持することで台湾をめぐる武力紛争を抑止することが最優先課題だ」と明記した。特に「第一列島線のいかなる地点でも侵略を阻止できる軍を整備する」と宣言し、台湾を軸とした地域抑止力を、米軍と同盟国軍が共同で担う任務だと位置づけている。
第一列島線には韓国も含まれることから、トランプ政権が今後も台湾防衛を念頭に韓国の役割拡大を繰り返し求めていくとの見方が出ている。トランプ大統領が韓国の原子力潜水艦建造を「承認」したとされる経緯も、こうした文脈と無関係ではないとの指摘がある。
NSSは一方で、「米国がこれを単独で遂行することはできず、またそうすべきでもない」とし、同盟国に対し国防費の増額を強く迫った。「同盟国は集団防衛のために、これまで以上に大きな役割を果たさなければならない」としたうえで、「米外交は第一列島線内の同盟国に対し、米軍の施設利用拡大、自国防衛支出の増額、抑止能力の強化へ投資するよう促すことに重点を置くべきだ」としている。
さらにNSSは、「第一列島線に沿った海洋安全保障上の課題を連動させつつ、台湾への占領の試みや、台湾防衛が不可能になるような事態を阻止できる米国と同盟国の能力を強化する」と言及した。
そのうえで、「トランプ大統領が日本と韓国に対し、防衛費負担の増額を強く求めていることを踏まえ、これらの国々には、仮想敵国を抑止し第一列島線を防衛するために必要な能力に焦点を当てて国防支出を拡大するよう促さなければならない」と強調した。日韓両国への防衛費増額要求が、中国による台湾侵攻を抑止するための対中けん制と密接に結びついている可能性も示唆した形だ。
先月の米韓首脳会談の共同ファクトシートには、「韓国の国防費を国内総生産(GDP)比3.5%へ早期に引き上げる」との合意が明記されており、今後、具体的な圧力は一段と強まるとみられる。

また、中国について国名を直接挙げる記述は抑えつつも、NSSは ▲国家主導の産業戦略や補助金、▲不公正な貿易慣行、▲知的財産権の侵害、▲レアアースなどを通じたサプライチェーンへの脅威、▲フェンタニル原料の輸出 などを列挙し、事実上の対中牽制を全面に打ち出した。米国はまた「南シナ海の支配をめぐる懸念」に触れ、日本やインドなど地域パートナーとの海洋安全保障協力を一層強化する必要性を指摘した。
同時にトランプ政権は今回の戦略で、「西半球優先主義」、いわゆるトランプ版モンロー主義(いわゆる「ドンロー・ドクトリン」)を公式に掲げた。NSSは「米国がアトラスのように世界秩序を一手に支えていた時代は終わった」と述べ、「西半球の安定と米本土へのアクセス確保のため、モンロー主義を再確認し、強化する」と宣言した。
これは、トランプ大統領が最近、ベネズエラへの軍事的圧力を強めたり、パナマ運河への影響力拡大に意欲を示したりしている流れを受け、いわゆる「ドンロー主義」を米外交・安保政策の原則として正式に位置づけたものと受け止められている。
移民政策でもNSSは「大規模移民の時代は終わった」とし、国境管理や麻薬対策、人身売買対策などで、強力な統制路線を維持する姿勢を改めて打ち出した。
一方、全29ページにわたる今回のNSSで「韓国」という表記はわずか3回にとどまり、「北朝鮮」は一度も登場しなかった。バイデン政権が2022年に公表したNSSでは北朝鮮が3回言及され、2017年にトランプ第1期政権がまとめたNSSでは17回も登場していたことを踏まえると、異例の扱いだといえる。
今後の具体的な安保戦略づくりの指針となるNSSから北朝鮮が事実上外れた形となったことで、米外交・安保政策における北朝鮮の優先順位が相対的に低下したのではないかとの見方が出そうだ。あわせて、トランプ大統領が金正恩朝鮮労働党総書記との対話に前向きな姿勢を繰り返し示してきた経緯とも、無関係ではないとの指摘もある。
















コメント0