米国は10日午前(現地時間)、ベネズエラ沖を航行していたアジア向けとみられる原油タンカー1隻を拿捕した。ドナルド・トランプ米大統領が同日明らかにしたもので、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領に対する米政府の圧力が一段と強まったことを示している。
今回の拿捕は、ベネズエラの野党指導者マリア・コリーナ・マチャド氏がノーベル平和賞の授賞式に向け船でベネズエラを出発して数時間後に行われた。マチャド氏は授賞式に出席できず、娘が代理で受賞した。

拿捕の報が伝わると原油先物価格は上昇した。ブレント原油先物は1バレル62.35ドル(約9,705円)と41セント(約64円)上昇し、米ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物も21セント(約33円)高の58.46ドル(約9,103円)で取引された。
トランプ大統領はホワイトハウスの行事で「われわれはベネズエラ沖でタンカー1隻を拿捕した。非常に大きなタンカーで、事実上、過去最大規模の拿捕だ」と述べ「ほかにも進行中の案件がある」と語った。大統領は、船主の詳細は明らかにしなかったものの、積載されていた原油について「おそらくわれわれが引き取ることになる」と言及した。
パム・ボンディ米司法長官は、連邦捜査局(FBI)や国土安全保障捜査局(HSI)、沿岸警備隊が国防総省の支援を受けて拿捕令状を執行したと発表した。ボンディ氏はSNSに、隊員がヘリコプターからロープで降下し、銃を構えて操舵室へ突入する様子を投稿した。
同長官は「当該タンカーは数年間にわたり外国テロ組織を支援する違法な石油輸送ネットワークに関与した疑いで米国の制裁対象となっていた」と述べた。また、この船は「禁輸制裁下にあるベネズエラやイランの原油輸送に使用されていた」と説明した。
米政府関係者は「ニューヨーク・タイムズ」に対し、拿捕された船は「スキッパー(Skipper)」と呼ばれるタンカーで、ベネズエラ国営石油会社PDVSAの原油を運搬していたと述べた。
同関係者によれば、米司法省は近年、国際原油の闇市場ネットワークを調査してきており、今回拿捕された船舶には過去にイラン産原油の密輸に関与した可能性があるという。拿捕船は実際の登録国とは異なる中南米の国旗を掲げ、最終目的地はアジアだったとされる。
米政府は約2週間前、同船が過去にイラン原油の密輸に関わったとの理由で拿捕令状を取得していた。米司法省は、イランが原油販売による資金を軍や米国がテロ組織に指定するイスラム革命防衛隊(IRGC)の活動に使用していると主張している。令状の詳細は公開されていない。
エネルギー調査会社Kplerは「ウォール・ストリート・ジャーナル」に対し「スキッパー」は超大型原油タンカー級(VLCC)で、11月中旬に自動船舶識別装置(AIS)を切り、ベネズエラで約110万バレルのメレイ(Merey)重質原油を秘密裏に積み込んだと明かした。

Kplerのアナリスト、マット・スミス氏は「このVLCCは過去にも『ダーク活動(イラン産原油の秘匿輸送)』に使用されたことがある」と述べた。スキッパーは原油積載後、ベネズエラ沖で停泊したまま移動していなかったとされる。
今年、ベネズエラの原油輸出量は日量75万バレルで、その半分以上が中国向けとされる。また、直近では米国のカリブ海での圧力作戦にもかかわらず、11月の輸出量は日量92万バレルへと増加した。
ベネズエラの総輸出に占める原油の割合は最大72.4%で、政府予算の58%を占めるとの分析もある。
米国防総省の関係者は、今回の措置はベネズエラ原油の積載を待つ他のタンカーへの警告だと述べた。海上追跡データによれば、ベネズエラ沖には約12隻のタンカーが待機しているが、一部はAISを切って検知を避けているという。
米国は現在、1万5,000人以上の軍兵力と空母ジェラルド・R・フォードを含む12隻の軍艦をカリブ海に展開している。トランプ大統領は中央情報局(CIA)によるベネズエラ向けの秘密作戦も承認しており、米軍が「非常に近い将来」、攻撃範囲をベネズエラ沿岸の小型艇から陸上目標へ拡大する可能性に言及した。
一方でトランプ大統領は11月21日、マドゥロ大統領と電話会談し、対話の可能性について協議したことを30日に明らかにした。
米国はベネズエラ産原油の輸出を禁じているが、シェブロンなど一部の米企業には例外措置を認めている。シェブロンは7月、ベネズエラでの新規投資や新たな油田開発を禁じる「限定的ライセンス」を受け、同国での事業継続を認められた。
これは、米国がベネズエラ石油産業に一定の影響力と情報収集ルートを確保しつつ、米湾岸の製油所が、硫黄分・不純物の多いベネズエラ産重質油を精製し、高い利幅の高付加価値製品を生産することに特化している事情などを踏まえた対応だった。

















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