
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が最近、核兵器、またはそれに匹敵する安全保障に言及したことを受け、停戦交渉をむしろ遠ざけようとしているのではないかとの見方が浮上している。
表向きには、欧米側に対して実効性のある安全保障を求める圧力と受け取れる。だが、現実には受け入れが難しい条件を前面に押し出したため、結果としては「今すぐ妥協する考えはない」というシグナルになっている可能性もある。
戦時下では、指導者の下に世論が結集しやすい。そうした効果まで踏まえると、戦争の長期化がゼレンスキー政権の政治的生存と無関係ではないのではないか、と疑う声まで一部で上がっている。
論点の出発点となったのは、ゼレンスキー大統領が核兵器、もしくはそれに相当する抑止力に触れた場面だ。インタビューでは、北大西洋条約機構(NATO)加盟が実現しないのであれば、ウクライナを何が守るのか、核兵器を与えるのかと問いかける趣旨の発言をしていた。実際の核開発を宣言したというより、集団防衛の保証がないのであれば、それに見合うだけの強力な抑止力が必要だと訴えたものに近い。
もっとも、ロシアはこれを即座に核の脅威と位置づけた。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も昨年10月、ウクライナの核武装を認めないと警告しており、こうした発言は交渉の場で「最大限の要求」というより、協議を硬直させる材料になりかねない。
ゼレンスキー大統領は最近も、米国側との協議を前向きに評価し、停戦と平和交渉の可能性そのものは閉ざしていない。復活祭に合わせた休戦案や、エネルギーインフラへの相互攻撃停止にも触れ、外交的解決を模索する姿勢を示してきた。
その一方で、ロシアにドネツクを譲る形の合意は受け入れられないと明言した。さらに、領土問題は自身と米国のドナルド・トランプ大統領、ロシアのプーチン大統領が直接向き合う首脳級協議で扱うべきだとして、譲れない一線も鮮明にしている。
交渉の必要性を語りながら、同時に妥協しがたい条件も並べているため、実際の妥協余地を自ら狭めているようにも映る。こうした事情から、核を巡る発言を単なる安全保障上の要求ではなく、政治的メッセージとして読む見方も出てきた。
戦争が長引けば、国内では非常体制の維持と指導部への権限集中が避けにくくなる。戒厳令下の戦時体制では選挙を通常どおり実施することも難しく、そうした環境では、強硬な戦時指導者というイメージが政権維持に有利に働く余地もある。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、安全保障危機を政治的に利用してきたとの批判にさらされてきたのと同じ文脈で、ゼレンスキー大統領もロシアとの妥協より戦時指導力の強調を優先しているのではないか、という疑問が出ているのはそのためである。
ただし、現時点で公開情報から確認できるのは、ゼレンスキー大統領が交渉の必要性そのものは認めながら、その前提条件をロシアにも欧米側にも容易には受け入れられない水準に置いている、という点にとどまる。
そのため、ゼレンスキー大統領の核発言は二つの相反する解釈を生んでいる。ひとつは、NATO加盟がかなわないのであれば、それに匹敵する確かな安全保障を示すよう欧米側に迫る圧力だという見方だ。もうひとつは、実現可能性の低い要求を掲げることで、交渉が失敗した場合の責任を外部へ向けつつ、戦争継続の政治的名分を積み上げようとしているとの見方である。
いずれにしても、こうした発言が停戦協議を円滑にするより、むしろ一段と難しくしているのは確かだ。安全保障を確保するための瀬戸際の圧力なのか、それとも妥協を伴わない長期戦の宣言に近いのか。ゼレンスキー大統領のメッセージをどう読むかによって、ウクライナを巡る交渉の行方も大きく変わってきそうだ。














コメント1
uorotaepapa
煎じ戒厳令が権力維持の隠れ蓑。 戦争をやめる」という意見は小さく、統治者に抹殺されるんが常。 戒厳令の陰で甘い汁を吸う人たちは、現状を変える気が無い、悲しい現実。 イランもしかりだね