
欧州連合(EU)が域内に凍結されたロシア中央銀行の資産を活用し、「ウクライナ賠償金貸付」と呼ばれる新たな融資スキームを進めようとしている。
ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は9月30日、ベルギー・ブリュッセルでNATOのマルク・ルッテ事務総長と記者会見を行い、「貸付金の一部を欧州産の防衛調達に充てることで、防衛産業を強化する」と述べた。貸付金は分割で条件付きで支給され、ロシア資産を押収するわけではないと説明した。さらに「ウクライナはロシアが戦争賠償金を支払う場合にのみ返済すればよい。加害者は責任を負うべきだ」と強調した。
今回の構想は、ベルギーにある中央預託機関ユーロクリアに保管されているロシア資産のうち、現金化された約1,400億ユーロをEUが無利子で借り入れ、ウクライナに無利子で貸し出すという仕組みだ。資産の元本を没収せず、銀行が預金を運用するように資金を循環させる方式と説明されている。
ただし、資産の多くが預託されているベルギーは「リスク負担が大きすぎる」として強く反対している。一方でドイツは賛成の立場を表明し、10月1日の非公式首脳会議で各国の賛同を得られるか注目が集まっている。EU執行部は全会一致ではなく加重多数決による合意を目指す方向で法的整備を進めている。
さらにフォン・デア・ライエン委員長は、ウクライナのドローン生産に20億ユーロ(約3兆円)を投資する方針を発表した。具体的な支援の形は示されなかったが、戦場でのドローン供給を下支えする狙いとみられる。彼女は「この資金はウクライナの能力を拡大させ、欧州にも技術的な利益をもたらす」と説明した。
ルッテ事務総長はEUが推進する「ドローンウォール(ドローン防御網)」について「時宜を得た必要な措置だ」と評価し、「数千ドルのドローンを落とすために数百万ユーロ規模のミサイルを使い続けるわけにはいかない」と指摘した。EUとNATOは重複投資を避けつつ、協力を深める方向で議論を進めている。
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