
中国が再び日本に対する圧迫手段として希土類を巡る動きを強めている兆しが指摘されている。しかし、日本国内では大きな動揺は確認されていない。過去と現在では、希土類を取り巻く構造が異なるためだ。
かつて中国は、希土類の供給を通じて日本の産業活動に影響を及ぼしてきた。だが現在は、中国の統制力が相対的に低下する中で、日本が代替供給の流れを確保してきた経緯がある。この結果、希土類は従来のような戦略的手段として機能しにくい状況に置かれている。
中国が希土類を圧力手段として用いた象徴的な事例は、2010年の尖閣諸島を巡る問題だった。当時、中国は輸出手続きを大幅に遅延させ、日本の産業界に混乱をもたらした。日本国内では、希土類供給を巡る不安が現実のものとなった。
ただし、この影響は短期的なものにとどまった。その後、日本は希土類依存の低減を目的に、国産代替技術の開発と海外調達網の整備を進めた。ベトナムやオーストラリア、マレーシアなどとの協力関係が強化され、中国一極依存の構造は緩和された。
一方で、中国国内では希土類産業の脆弱性が顕在化した。日本の購入量が減少したことで、多くの鉱山事業者が経営難に陥った。これを受けて、習近平政権は産業基盤の国有化と再編を進める対応を取った。
しかし、希土類の採掘と精錬は深刻な環境負荷を伴う。生態系への影響が大きく、短期間での代替や再構築は困難とされている。その結果、中国側が自ら負担を抱え込む構図が続き、希土類の武器化の実効性は低下した。

現在、日本の対中希土類依存度は、かつての80%超からおおむね半分程度まで下がった。供給網に関するリスクは、実質的に緩和された状態にある。
この変化は、中国にとっても重荷となっている。米国との対立局面で希土類を持ち出した経験は、国際社会の警戒を招いた。反希土類依存を巡る議論が広がり、中国の影響力はむしろ縮小する結果となった。
加えて、日本は半導体や素材分野という別の重要なカードを有している。半導体工程における歩留まりや安定性は、素材産業への依存度が高い。中国は、この分野での技術格差を短期間で埋める状況にはない。
こうした事情から、中国が希土類を容易に切り札として使えない構造が形成されている。日本が今回の動きを過度に問題視していない背景もここにある。
かつて戦略的意味を持った希土類は、供給網の多様化と技術代替の進展の中で影響力を失った。日本はすでに構造的対応を終えた段階にある。
習近平政権が再び希土類を用いた圧迫に踏み切れば、逆効果となる可能性は高い。中国の従来型の資源圧力は、実効性を失いつつある。今後の焦点は、中国がこの戦略を維持するのか、それとも新たな供給網競争の中で別の手段を模索するのかに移りつつある。















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