
朝鮮人民軍の「実像」は、宣伝とは正反対の場所にあった。金日成広場で繰り返される大規模閲兵式は、規律と威容を誇示するための舞台装置にすぎず、その裏側で兵士たちが置かれている生活環境は、軍事国家を標榜する体制とは到底両立しない水準にあることが、相次ぐ内部証言によって浮かび上がっている。
閲兵式で兵士が身にまとう新品同然の戦闘服は、行事終了と同時に回収され、管理倉庫へ戻される。兵士たちは直ちに、擦り切れ、色あせた実戦用の軍服へと着替えさせられる。外部の専門家が写真や映像だけを根拠に「戦力の近代化」を語ってきた光景は、演出された表層にすぎず、実態は深刻な物資欠乏と生活水準の崩壊であった。
その象徴として語られているのが、下着の問題だ。内部関係者の証言によれば、北朝鮮兵士の10人中7人以上が日常的に下着を着用していないという。国家から支給される綿製の下着は年に2枚とされているが、数日で破れ、破れなくとも汗と摩擦で体に食い込み、かえって苦痛を生む。結果として、多くの兵士が「履かない」選択を余儀なくされている。
これは単なる不足の問題ではない。洗濯は週1回に制限され、干しておけば盗難に遭う。下着1枚が生存競争の対象となる環境で、私的に購入することは規律違反とされ、発覚すれば処罰の対象となる。軍当局はこの状況を放置したまま、閲兵式や指導部視察専用の新品の下着と軍服だけを別枠で管理している。

さらに異常なのは、靴下すら十分に支給されない実態だ。兵士たちは薄い布を足に巻き、その上からゴム製の軍靴を履く。布は数日で擦り切れ、冬場には古い下着やビニールを足に巻いて寒さをしのぐ。常に傷だらけの足と悪臭に晒される軍靴の内部は、装備というより生存手段の一部と化している。
軍服の支給規定も形骸化している。夏服は年1着、冬服は2年に1着とされるが、実際には幹部が新しい軍服を横流しし、市場で売却する例が後を絶たない。兵士たちは破れた軍服を自ら縫い直し、建設現場などに動員され、収容所を思わせる環境で酷使されている。軍帽も5年に1個支給が原則とされるが、まともに受け取った記憶がないという証言も出ている。
女性兵士の状況はさらに深刻だ。生理用品すら十分に支給されず、下着1枚の重要性は男性兵士以上に切実である。にもかかわらず、金正恩総書記が視察する際に兵士が着用するのは、すべて倉庫に保管された行事専用の軍装であり、視察が終われば即座に回収される。
この現実を前にすれば、閲兵式で掲げられる「百戦百勝無敵の軍隊」というスローガンは、空虚な響きを持つ。実戦用の軍服すら満足に支給できない体制が、何をもって軍事大国を名乗るのか。北朝鮮軍の実態を突き詰めれば、結論は一つに収斂する。まずは兵士に下着を行き渡らせてから、国家の威信を語るべきだ。














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