
人が人を食べることは、文明社会では考えられない行為であり、映画や小説の中だけの話だと思われがちだ。人肉を食べる人々、いわゆる食人種。彼らは本当に存在するのだろうか。
実際に人間が人肉を食べた事例がある。1972年10月、ウルグアイ大学のラグビー選手を乗せた飛行機がアンデス山脈に墜落した。72日間の過酷な状況を乗り越え、16人が奇跡的に助け出された。彼らは生き延びるために、死亡した仲間の肉を食べざるを得なかった。この実話は1993年、映画『生きてこそ(原題:Alive)』として公開され、大きな反響を呼んだ。
古代の文献には、食人の習慣を持つ民族の記録が散見される。旧約聖書は、神が不従順な者たちに対し、互いに食い合うよう宣告している。
ギリシャ神話では、オルぺウスが人類に食人を禁じ、農耕と文字の使用を教えたとされる。紀元前8世紀頃、ギリシャの詩人ホメロスの「オデュッセイア」には、人食い巨人から逃げる場面が描かれている。紀元前4世紀のギリシャの歴史家ヘロドトスは、世界の果てとされるアジアに食人種が住んでいると記している。
では、食人種は単に空腹を満たすために人を食べるのだろうか?ほぼ全ての原始部族に見られた食人の習慣は、飢えを凌ぐためではなかった。様々な理由が考えられるが、最も大きな要因は相手の精神と身体を我が物にしようとする信念だった。強者の肉を食べることで、その人の魂と力を得られると信じていたのである。
新聞の風刺画によく、煮えたぎる鍋の中に宣教師が入っている場面が描かれる。しかし、これには歴史的根拠がない。一体、どんな食人種が宣教師の魂を受け継ごうとしただろうか。