
「コンビニの靴下がこんなにオシャレだなんて!」
2021年、ファミリーマートが発表した自社ブランド(PB)「コンビニエンスウェア」の「ラインソックス」は、予想外の反響を呼んだ。白・青・緑のブランドロゴカラーを用いた三色ストライプの靴下は、シンプルなデザインで評判を呼び、国民的俳優・木村拓哉が履いている写真がSNSに一枚投稿されただけで、瞬く間に店頭から姿を消した。
売上はどれほどだったのか。ファミリーマートの親会社、伊藤忠商事の報告書によると、2024年5月時点でこの靴下の累計販売数は2,000万足、売上高は約100億円に達したという。モノトーンのコーディネートに三色ストライプを一つ加えるだけで、スタイルが格段に引き立つこのソックスの価格は429円だ。
コンビニエンスウェアのデザインは、ストリートウェアブランド「FACETASM(ファセッタズム)」の創設者で、2016年リオオリンピック閉会式の衣装を手掛けた落合宏理氏が現在も総括している。コンビニのPBがデザインにどれほど本気で取り組んでいるか、伝わるだろうか。
ファミリーマートは昨年3月、下着と洋服の境界を曖昧にした「ブラウェア」を新たに発表した。肩紐を細くし、肌に触れる裏地の縫い目をなくすことで着心地を向上。東京の風景をプリントしたTシャツやデニムショートパンツまで、製品ラインナップがますます多様化し、コンビニでの衣類の陳列スペースも徐々に拡大している。
コンビニで服を選び、アパレルショップで花を買い、書店で一日を過ごす。もはやこれらは特別珍しくもない。ファッション、流通、出版を代表するブランドが「本業」の枠を超えて新たな領域を開拓しているからだ。

木村拓哉が、関西地方限定で発売されたファミリーマートの「ラインソックス」を着用している写真。この一枚がSNSで大きな話題を呼び、多くの消費者がこの靴下を求めて様々な店舗を巡るという現象が起きた。
コンビニが衣料品を販売する一方で、日本を代表するSPA(製造小売業)ブランド、ユニクロは花を販売している。2020年に横浜の一部店舗で始まった「ユニクロフラワー」は、現在東京の原宿、新宿など主要店舗に拡大している。2023年3月からはシンガポールのオーチャード・セントラル店など、海外の一部店舗でもサービスを開始した。
チューリップ、バラ、カーネーションなど、季節に応じて花の種類は多様であり、価格は一本390円から。セルフレジの横や店舗入口に控えめに置かれた花の陳列台には、毎週市場から仕入れた新鮮な花が並び、各花の管理方法が記載されたカードも添えられている。
なぜアパレルショップで花を販売するのか。ユニクロは自社の理念を「ライフウェア」、つまり日常生活のための服だと説明する。服が生活必需品であるなら、花はその日常に小さな潤いと感情を添える存在だ。花を置くことは、単なる装飾ではなく、日々の暮らしの質まで提案しようというユニクロ流のアプローチと言える。

「ライフウェア」という理念のもと、単なる衣料品を超えて、一輪の花で日常に彩りを提案するブランドへと進化している。
書店とDVDレンタルから始まったTSUTAYA(ツタヤ)も、今や全く異なる姿に進化している。主要店舗はもはや単に本を販売する場所ではない。カフェやレストラン、コワーキングスペース、ピラティススタジオ、レンタルキッチン、ゴルフ練習場まで、生活のあらゆる場面をカバーする「ライフスタイルキュレーション空間」へと変貌を遂げている。
今や本はツタヤが提案するライフスタイルの一部に過ぎない。人々は本を購入するためだけでなく、仕事をし、食事をし、思索するためにツタヤを訪れる。「どのような生活を提案するか」を追求してきたツタヤの企業理念が、時代の流れに合わせて進化した結果とであると言えるだろう。
ファミリーマートは衣服で、ユニクロは感性で、ツタヤは時間で人々の生活に寄り添う。業種は異なれど、彼らが投げかける問いは同じだ。「何を売るか」ではなく「いかに生活に寄り添うか」。この問いに対する小売ブランドの実験は、今や東京の至る所で現実のものとなりつつある。