
クジラは海に生息する最大の哺乳類であり、現存する地球上最大の動物でもある。しかしその多くは絶滅の危機に瀕しており、国際捕鯨委員会(IWC)は1985年から商業捕鯨を禁止している。それにもかかわらず、密かに捕鯨を続けている国もある。人類はかつて、クジラの油や肉を得るためにその命を狩っていた。では、私たちはいつからクジラを狩っていたのだろうか。
スペイン、フランス、オーストリア、スイス、デンマーク、カナダの6か国17の大学・研究機関からなる国際共同研究チームは、人類が約2万年前からクジラの骨を道具に利用していたことを突き止め、5月30日に発表した。この研究には、スペインのバルセロナ自治大学環境科学技術研究所、カンタブリア大学、サラマンカ大学、オビエド大学、フランス国立自然史博物館、ボルドー大学、モンペリエ大学、トゥールーズ大学ジャン・ジョレス校、フランシュ・コンテ大学、パリ・サクレー大学、オーストリアのウィーン大学、ウィーン人類進化・科学研究所、スイスのヌーシャテル州文化遺産・考古学部、コペンハーゲン大学、ブリティッシュコロンビア大学などが参加している。研究成果は、基礎科学・工学分野の国際学術誌『ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)』の5月28日号に掲載された。
研究チームは、スペインとフランスに接するビスケー湾沿岸の遺跡から出土した骨製道具83点、およびスペイン・サンタカタリナ洞窟から出土した骨90点について、質量分析法と放射性炭素年代測定法を用いて年代を特定し、分類・分析を行った。

分析の結果、これらの骨は少なくとも5種類の大型クジラに由来するものであり、最古のものは1万9,000~2万年前の時代にさかのぼることが判明した。研究チームは、これが人類によるクジラの遺骸利用として最古の証拠であると位置付けている。確認されたクジラの種は、マッコウクジラ、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、タイセイヨウセミクジラ、ヒゲクジラなどで、現在もビスケー湾周辺で確認される種である。さらに、現在では北太平洋や北極海でまれに見られるコククジラの骨も発見された。これらの骨の化学的データを精密に分析した結果、古代のクジラの食性は現在の同種とは異なっていたことが明らかになった。これは、長い時間の経過によってクジラの行動様式や生息環境に変化があったことを示している。
研究を主導したジャン=マルク・プティヨン教授は「この研究は、沿岸地域における初期人類のクジラ活用方法の理解を深めると同時に、過去2万年間におけるクジラの生態系の変遷に新たな知見をもたらすものだ」と語った。