ナマケモノは「動きの遅い動物」の代名詞だ。英語で「Sloth」と呼ばれているが、英語では「怠惰」の意味も持っている。しかし実際には怠けているわけではなく、むしろ環境に極めてうまく適応した動物である。動きが遅いのは、代謝量と筋肉量が少ないためで、食料を得るのが難しい環境に順応した結果だ。木の上で生活し、栄養価の低い葉を食べて暮らしているが、その環境に適応してほとんど動かないよう進化してきた。
とはいえ、いくら栄養価が低くても、大量に食べれば補えるのではないかという疑問も生じる。キリンも体が大きいが、葉を主食としている。実際、ナマケモノの近縁種には、キリンやゾウのような生活様式を選んだものもいた。その代表例が、約1万2000年前まで新大陸に生息していた巨大地上性ナマケモノ「メガテリウム(Megatherium)」である。
現生のナマケモノからは想像し難いが、メガテリウムは体重が最大4トン、体長も6メートルに達し、二足歩行で高い枝にも容易に手が届いた。また、手には大きく鋭いツメがあり、太い枝を折って葉を食べることができた。このように巨大な体と鋭いツメを持つメガテリウムが絶滅し、ナマケモノが生き残ったというのは意外に思えるかもしれないが、そこには確かな理由がある。
米フロリダ自然史博物館のレイチェル・ナドゥチ氏率いる研究チームは、世界17カ所の博物館に保管されている約400点の化石からDNAを抽出し、地上性ナマケモノと樹上性ナマケモノの進化過程を調査。ナマケモノの体格に影響を与えた要因を明らかにした。
研究チームの分析によると、ナマケモノの祖先は3700万年前にアルゼンチンに生息していた大型犬サイズの動物、プセウドグリプトドン(Pseudoglyptodon)だった。そこから数十種の地上性ナマケモノや樹上性ナマケモノへと進化していったが、やはり地上で暮らすナマケモノの方が体が大きくなる傾向があった。
地上性ナマケモノの代表格が、前述のメガテリウムだ。約500万年前に南米で進化し、南北アメリカ大陸の接続後は北米にも分布を広げた。研究チームは、メガテリウムのような大型地上性ナマケモノが巨大化したのは、当時の広大な草原や寒冷な気候に適応した結果であると分析している。
広い草原で長距離を移動して食べ物を探す際、大きな体は多くの利点をもたらす。また、高所の葉など、他の動物が接近困難な食物も容易に獲得できる。さらに、隠れ場所の少ない草原では、大型の体が身を守る強力な武器となる。このことから、メガテリウムは現代の象と体格だけでなく、生態的地位も類似していたと推測できる。
さらに研究チームは、気候変動も重要な要因だったと分析した。メガテリウムなどの地上性ナマケモノは、幾度もの氷期と間氷期を経験し、寒冷化に伴い体が大型化する傾向を示した。大型化は、体表面積の相対的減少により、体温を維持するのに有利である。
しかし、天敵がほとんどいなかったと思われたメガテリウムは、人類の新大陸到来後の約1万2000年前に突如姿を消す。急激な気候変動と人間の狩猟が主因とされるが、正確な理由は未だ不明だ。
現在の生存者が最小で最も動きの遅いナマケモノであることは明白だ。動きが遅い分、食料消費も少なく、食べ物の心配をあまりしなくて済む。こうして、小型で樹上生活に適したナマケモノは、大型で強力な近縁種がすべて絶滅した後も生き残った。ナマケモノは、「大きさや力だけが生存の鍵ではない」という自然の知恵を私たちに教えてくれる存在かもしれない。