
火星は寒く乾燥した過酷な砂漠の惑星だ。だが約35億年前には地球と同じように液体の水が流れていたとされる。しかし小さな質量と弱い磁場のため、大気の大半を失い、温室効果も消滅。急速な冷却で現在のような乾いた地表に変わったと考えられている。
アメリカ・ミシシッピ大学の惑星地質学者エリカ・ルッチ氏のチームは、NASAの火星探査機「MRO」から送られてきた高解像度カメラ(HiRISE)のデータを詳細に解析。その結果、地下に氷が存在する可能性が高い有望な場所を突き止めた。
注目されたのは、北緯24度に位置するアマゾン平原。地球のアイスランドにも似た地形が広がるこの地域では、多角形状の模様が広く見られる。こうした模様は水分を含む地面が凍ることで形成されるとされ、氷の存在を示唆する重要な手がかりとなる。
火星の他地域にも似た模様は存在するが、アマゾン平原は日照量が適度で赤道からも距離があるため、地下の氷が長く保存されやすいという。科学者らはここが将来の有人・無人探査の「最重要ターゲット」になると見ている。

仮に地下の氷を確保できれば、火星にかつて存在したかもしれない生命の痕跡を探る手がかりとなるほか、人類の火星探査を現実のものとする大きな一歩にもなり得る。水は飲料や農業に使えるだけでなく、電気分解すれば水素と酸素に分けてロケットの燃料にもなる。
ただし、氷が存在するとしてもその深さや量はまだ不明だ。その答えを明らかにするため、2028年にはESA(欧州宇宙機関)の「エクソマーズ計画」が予定されている。探査車「ロザリンド・フランクリン・ローバー」は、水の有無を探るための観測装置を搭載して火星表面を調査する計画だ。
氷が豊富に、しかも地表近くに存在するのであれば、人類の火星移住構想は一気に現実味を帯びるかもしれない。
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