2023年6月に世界を震撼させた深海潜水艇「タイタン」の爆発事故について、米沿岸警備隊(USCG)の海洋調査委員会(MBI)は、5日(現地時間)、335ページにおよぶ最終報告書を公表し、「予防可能だった人災だった」と結論づけた。報告書では、5人の命を奪った直接的な原因として、船体の設計ミスや適切な認証の欠如、保守・点検体制の不備などが指摘されている。
タイタン潜水艇によるツアーは、1人あたり25万ドル(約3,678万2,000円)という超高額商品だった。1912年に北大西洋に沈没したタイタニック号の残骸を、水深約3,800メートルで直接見学できるという希少性から、世界中の富豪探検家の注目を集めていた。事故当時、英国の著名な実業家ヘイミッシュ・ハーディング氏や、パキスタンの実業家シャザダ・ダウッド氏とその息子スレイマンさん(19)ら、計5人が潜水艇に乗り込んでいた。

報告書は、潜水艇を開発・運用していた海底探査企業「オーシャンゲート」のCEO、ストックトン・ラッシュ氏による独断的判断と安全軽視の姿勢を厳しく批判した。特に、船体に採用された炭素繊維製の円筒構造が深海の莫大な水圧に耐えられないという複数の専門家からの度重なる警告を、ラッシュ氏が無視し続けていたことが明らかになった。報告書によれば、彼は安全性を懸念する従業員を解雇し、訴訟を起こすなどして意見を封じていたという。ラッシュ氏が事故で死亡していなければ、「業務上過失致死」の容疑で司法当局による捜査が行われていた可能性があるとも記されている。
また、潜水艇自体にも深刻な欠陥があった。船体を覆っていた炭素繊維素材は、深海の高圧環境には適さず、建造前に行われた縮小モデルによる圧力試験では4体すべてが破損していた。さらに、乗客の視界確保のために設置されていた前方のアクリル製観測窓は、水深650メートルまでしか耐えられない構造で、実際の運用深度である3,800メートルには到底対応できなかった。加えて、艇体は2022年から2023年にかけて、カナダ・ニューファンドランド州の屋外駐車場に保護装備なく放置されていたことが確認され、過酷な冬の気象条件によって損傷していた可能性もあるという。

事故の前兆とみられる異常も、これまでに複数確認されている。報告書によると、2022年7月15日の潜航では、潜水艇がタイタニック号の残骸に引っかかるトラブルが発生し、その際「大きな衝突音」が記録された。このような大きな衝撃音は、通常、船体の炭素繊維がねじれて変形する過程で発生するという。この時すでに、船体には致命的な損傷が生じていた可能性があるにもかかわらず、オーシャンゲート社は精密な検査を行わないまま、その後も運航を続けていた。
実際、2018年には船体の安全性を訴えた従業員が解雇され、米国労働安全衛生管理局(OSHA)に内部告発を行っていたが、関係機関の連携不足により調査は行われず、結果として「悲劇を防ぐ機会は何度もあった」と報告書は強調している。
海洋調査委員長のジェイソン・ニューバウアー氏は、「今回の事故と5人の命の喪失は防げたものであり、事故の原因を特定することで、今後の再発防止に生かすべき教訓が得られた」と語った。映画『タイタニック』の監督であり、深海探査の専門家としても知られるジェームズ・キャメロン氏は、事故直後に「タイタニックもタイタンも、警告を無視した結果、同じ場所で再び命を落とすことになった」と批判した。

今回の事故を受けて、高リスクな観光体験への懸念も高まっている。富裕層や冒険志向の若年層の間では、近年、民間宇宙旅行や火山近接ツアーなど、極限体験型の旅がブームとなっているが、こうした観光の安全性が十分に検証されていなければ、タイタンのような重大事故につながる恐れがあるとの警鐘も鳴らされている。
オーシャンゲートは国際海域で潜水を行うことで各国の規制の目を逃れ、乗客を「ミッションスペシャリスト」と呼んで契約上の責任を回避するなど、巧妙な手法を取っていたことも明らかになった。
報告書は、今後の対策として「潜水艇の設計、製造、保守に関する統一的な国際基準の整備」と「通信手段の強化」を強く求めており、業界全体への規制強化の必要性を訴えている。
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