「星のない」暗黒銀河を大量発見──暗黒物質の正体解明に一歩前進

韓国の研究チームが、星を持たず暗黒物質とガスのみで構成される「暗黒銀河(ダーク・ギャラクシー)」の候補を大量に発見した。これまでに報告された候補は10個前後にとどまっていたが、今回の発見はその10倍を超える規模となる。
ソウル大学物理天文学部のファン・ホソン教授率いる研究チームは、「アレシボ電波望遠鏡(ALFALFA)」による観測と、超高精度の宇宙光学画像マッピング「DESIレガシー・イメージング・サーベイ」のデータを活用し、星を持たない暗黒銀河の候補142個を新たに発見。その研究成果を、22日付の国際学術誌『アストロフィジカル・ジャーナル・サプリメント・シリーズ(Astrophysical Journal Supplement Series)』最新号で発表した。
宇宙の標準モデルによると、宇宙は暗黒エネルギーが68.3%、暗黒物質が26.8%、通常の物質がわずか4.9%を占めており、人類が理解し活用している領域は全体の5%にも満たない。銀河は、暗黒物質の重力によってガスが集まり、そこから星が形成されることで誕生するが、一部には星を形成しない銀河も存在するとされている。
こうした星を持たない銀河は「暗黒銀河(ダーク・ギャラクシー)」と呼ばれる。通常の銀河は多数の星が光を放って存在が確認できるが、暗黒銀河は星も、光を放つ塵やガスもほとんどないため、通常の望遠鏡では観測が極めて困難で、これまで発見された例はごくわずかにとどまっていた。星を持たず、暗黒物質とガスのみで構成された銀河を体系的に探索することは、宇宙構造形成の理論を検証し、暗黒物質の性質を解明するうえで極めて重要だ。
暗黒銀河の存在数が極端に少ないことは、宇宙論上の難題である「ミッシング・サテライト問題(missing satellite problem)」とも深く関係している。この問題は、シミュレーションによって予測される天の川銀河周辺の衛星銀河の数と、実際の観測で確認される数とに大きな乖離があることを指す。標準モデルでは数百個以上の衛星銀河が存在するはずだが、実際に観測される数はこれを大きく下回っているため、長らく未解決の問題となっている。
研究チームは、暗黒銀河を見つけるためにALFALFAの大規模な観測データを分析した。暗黒銀河は光を放つ物質をほとんど持たないが、多量の中性水素(HI)ガスを含んでおり、これが放出する特定の電波をアレシボ望遠鏡で検出することができる。
まず中性水素の電波信号344件を抽出し、他の銀河と重なっておらず孤立した天体だけを選別した。暗黒銀河は、周囲に他の銀河や物質がほとんど存在しない「低密度環境」に分布しているためだ。
その後、これらの天体が本当に星や塵を持っていないかを確認するため、光学・紫外線・赤外線の各画像を1件ずつ丁寧に確認。その結果、星の光や塵の痕跡が一切検出されなかった142天体を、最終的な暗黒銀河の候補として特定した。
研究チームは、「今回の研究は、ミッシング・サテライト問題の解明において、暗黒銀河が重要な役割を果たしうることを示している」と説明。今回の発見により、これまで見落とされていた銀河が存在する可能性が高まり、この難題の解決への道が開けるとの期待も高まっている。
さらに、この成果は、韓国が参加予定の世界最大級の電波望遠鏡「SKA(Square Kilmetre Array)」による観測や、ベラ・ルービン望遠鏡を用いた可視光観測プロジェクト「LSST(Legacy Survey of Space and Time)」の研究にも大きな貢献をもたらすと見られている。
研究チームは「今回の発見は、銀河形成に関する標準モデルを観測によって検証する重要な転機となる。暗黒物質の存在と性質を解明するうえでも、極めて有意義な手がかりになるだろう」と述べた。
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