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2025年08月18日月曜日
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【宇宙の謎に決着】宇宙は“空っぽ”じゃなかった!物質だけが生き残った理由を粒子物理で解明

宇宙が空虚ではなく物質で満たされている手がかりを発見

引用: ネイチャー
引用: ネイチャー

ビッグバン直後、なぜ宇宙は消滅せず物質だけが残ったのだろうか。欧州原子核研究機構(CERN)のLHCb(大型ハドロン衝突型加速器ボトムクォーク)実験により、この長年の謎に一歩近づく結果が得られた。国際研究チームは「ラムダbバリオン(Λ0b)」という粒子の崩壊過程を精密に追跡し、この粒子が完全に対称的には振る舞わないことを確認した。物質と反物質が根本的に同じでないという「非対称性」がバリオン系列の粒子で実験的に初めて確認された。この微小な差異は、初期宇宙で物質がどのように生き残ったかを説明する手がかりとして注目されている。

宇宙は約138億年前、ビッグバンという急激な膨張で誕生した。この過程で物質と反物質が同量生成された。反物質は物質と物理的特徴は同じだが性質は正反対だ。例えば、負電荷(―)を持つ「電子」の反物質は「陽電子」で正電荷(+)を持つ。理論上、これらが出会うとエネルギーだけを残して消滅する「対消滅」を起こす。そうなると、ビッグバン後の宇宙は空っぽのはずだ。しかし、現在、星や惑星、生命体や物体が宇宙に存在する事実は、初期宇宙で物質側にバランスが傾いていたことを示唆している。

物質が反物質より頻繁に崩壊

この非対称性の手がかりを探るため、24ケ国1,800人以上の科学者がLHCb実験に協力した。研究チームはCERNが運営するフランス・スイス国境地下の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で陽子を光速近くまで加速し、正面衝突させた。ビッグバン直後に似た極限条件を再現したのだ。

その後、「LHCb検出器」を用いて衝突過程で生成された物質と反物質の粒子を追跡。LHCb検出器は長さ21m、重さ6,000tに及ぶ巨大装置で、4次元カメラのように粒子の運動と崩壊を精密に記録する。研究チームはバリオン系列の粒子であるラムダbバリオンとその反粒子の8万件以上の崩壊を分析した結果、崩壊確率分布において物質と反物質の間に平均2.45%の非対称性が現れた。これは粒子物理学界で実験的「発見」として認められる5シグマレベルの統計的有意性を持ち、物理法則の対称性が破れたことを示す信号と見なせる。

研究チームが捉えた非対称性は「CP対称性の破れ」と解釈される。CP対称性の破れとは、物質と反物質の対称性が微細に崩れる現象を指す。Cは電荷(charge)、Pはパリティ(parity)を意味し、物質と反物質が鏡に映ったように同じ振る舞いをしない場合、これをCP対称性の破れと呼ぶ。この現象は1960年代にメソン系列の粒子で初めて観測された。その後、日本のBelle実験や米国のBaBar実験などでも繰り返し確認されている。しかし、メソンは寿命が短く、宇宙の主要構成粒子ではないという限界があった。

そのため、科学者たちは我々の世界の主要な粒子の一つであるバリオンでも同様の現象が見られるかを長年追究してきた。バリオンは3つのクォークから成るより重い粒子、つまり重粒子で、陽子や中性子のように我々の物質世界を構成する基本単位だ。今回のラムダbバリオン実験は、これまでメソンに限られていたCP対称性の破れの研究をバリオン領域に拡張した初の事例である。この研究結果は7月に国際学術誌『ネイチャー(Nature)』に掲載され、宇宙に物質だけが残った理由を解明する新たな手がかりを提供すると期待されている。

引用: CERN
引用: CERN

暗黒物質の起源も解明となるか

今回のLHCb実験で科学者たちがもう一つ注目したのはミューオンだ。ミューオンは電子の「いとこ」にあたる粒子で、電子同様に電荷を帯びるが、質量は約200倍重く、寿命は短い。質量の大きいミューオンは軌跡が直線的で鮮明に残るため、複雑な粒子衝突の中でも識別しやすい。今回の実験でもラムダbバリオンの崩壊で生成されたミューオンの軌跡を追跡することで、物質と反物質間の微細な違いを明らかにできた。

一部の理論家は、今回の発見が「共生成(co-genesis)」仮説を支持する可能性があると考えている。この仮説は、遠い昔のビッグバン直後に物質と反物質が分離した際、暗黒物質も同時に生成された可能性を示唆している。物質とともに暗黒物質も同時期に生成されたとすれば、これは暗黒物質の起源解明に重要な手がかりとなり得る。

ただし、今回観測されたCP対称性の破れの規模は、依然として標準模型が予測する範囲内にとどまっている。この範囲では物質-反物質の非対称性の原因を十分に説明できないため、物理学界は標準模型を超える新理論を模索している。そのため、ミューオンやニュートリノなどのレプトン(電子のように電荷を持つが強い相互作用をしない粒子)系列の探索が拡大している。

中でもニュートリノが主要な候補として浮上している。ニュートリノは電荷がなく、質量もほぼゼロだ。しかし、3種類(電子型、ミュー型、タウ型)の間で変換される「振動」現象を起こし、CP対称性を破る可能性がある。日本のT2K、米国のNOνA、DUNEなどの大型国際共同実験がこれを精密に検証しており、今後稼働予定のハイパーカミオカンデ(Hyper-Kamiokande)も同じ目標に加わる予定だ。もしニュートリノでも非対称性が確認されれば、物質と暗黒物質の起源を同時に説明する物理学の新たな扉が開かれる可能性がある。

今回の実験を主導したイタリア国立核物理研究所の粒子物理学者ヴィンチェンツォ・バニョーニ氏はCERNの報道資料で、「バリオンのような重い粒子の崩壊でCP対称性の破れを初めて観測した今回の実験は、対称性の破れがどのような条件でどのように現れるかをより深く探求できる理論的・実験的研究の道を開いた」と述べ、「CP対称性の破れの観測例が増え、精度が高まることで、標準模型を超える新しい物理の探求機会も増えるだろう」と語った。

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