
雨に濡れた街角。そこには、ただひたすらに飼い主を待ち続ける一匹の犬がいた。
時が過ぎても、その瞳は誰かを探すように遠くを見つめていた――。
台湾・桃園に暮らすシンホが、その犬に出会ったのは数年前の出勤途中だった。
まだ1歳ほどと見られる黄土色の雑種犬。
商店街の前をさまよいながら、通り過ぎる人々をじっと見上げていた。

だが、その姿はどこか痛々しかった。
店員に追い払われ、見知らぬ人に邪険にされても、犬は決してその場を離れなかった。
シンホは心配になり、餌を差し出してみた。
もしかすると、それをきっかけに自分についてくるかもしれない。
しかし犬は身を固くして動かず、ただ一点を見据えていた。
犬が待っていたのは、ほかでもない。
自分を置き去りにした飼い主が、いつか戻ってくるかもしれないという、儚い希望だった。
その間にも犬は、幾度となく車にひかれそうになる危険にさらされた。
それでも、飼い主と再び会えると信じてその場所を離れようとしない。
そして気づけば、1か月もの時が流れていた。
シンホは見かねて、ついにネットのコミュニティに投稿した。

「この子は1か月前からここにいます。ずっと飼い主を待ち続けていますが、まだ一人ぼっちです。」
さらにこう付け加えた。
「食べ物を与えても誰にもついて行かず、追い払われても必ずここに戻ってきます。こんなに忠実で優しい子を、誰かが捨てたのです。」
投稿は瞬く間に拡散し、わずか1日で900件以上のコメントが寄せられた。「どうしてこんな子を捨てられるのか」、「胸が締め付けられる」、「早く温かな家庭に迎え入れられますように」多くの人が心を痛め、祈るような言葉を残した。
シンホもまた、SNSで決意を示した。
「もし元の飼い主が現れないのなら、この子に新しい家族を見つけたい」
哀しみと孤独に耐え抜いたその雑種犬が、いつか本当の家族と出会い、もう二度と待ち続ける必要のない日々を送れるように。
その願いは、投稿を読んだすべての人々の祈りとなって広がっていった。
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