
ドナルド・トランプ米大統領が、ロシアとウクライナの戦争を停戦へと導く圧力の一環として、ウクライナへの防空ミサイル追加支援を打ち出したが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、むしろ攻勢を強めている。数か月以内にウクライナの防衛線が崩壊すると見て、「完全降伏」を新たな目標に据えているとの見方が浮上しているという。
10日(現地時間)、ウクライナ空軍によれば、ロシアは前日の夜、ドローン728機とミサイル13発を使ってキーウを含むウクライナ全土に大規模な攻撃を仕掛けたとのこと。これは2022年2月のロシアによる侵攻開始以降、単一攻撃としては最大規模だという。今回の空爆は、トランプ大統領がプーチン大統領を「停戦に非協力的」と批判したわずか数時間後に発生した。
トランプ大統領は今月3日にもプーチン大統領と通話後、「非常に失望した」と語っており、その際も数時間後にロシアがドローンやミサイル計550機による大規模攻撃を行っている。
複数のロシア政府関係者は米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)に対し、「プーチン大統領はウクライナの防衛線が数か月以内に崩壊すると見込んでおり、ウクライナ側の大幅な譲歩がなければ戦争を止める意思がない」と語った。
カーネギー・ロシア・ユーラシアセンターの上級研究員タチヤナ・スタノバヤ氏も「プーチン大統領はトランプ大統領との関係改善のためにウクライナ戦争の目的を犠牲にするつもりはない」と指摘した。「トランプ大統領との個人的な関係は重視しているが、米国の対ロシア政策が大きく変わらないことは理解しており、常に最悪の事態を想定して備えてきた」と分析している。
また、プーチン大統領が停戦の条件として求めているのは、西側諸国による対ロシア制裁の全面解除と、欧米の銀行に凍結されたロシア資産の返還だという。NYTは、クレムリン関係者の話として「ロシア政府は、戦争終結のためにはこれらの要求がすべて満たされる必要があるとの立場だ」と報じている。
一方、ロシアはドローンや巡航・弾道ミサイルによる攻撃でウクライナの民間地域を重点的に狙い、人的被害を拡大させている。最近では、ロシアのドローンが数キロ上空を飛行できるように改良されており、ウクライナの防空部隊が保有する機関銃などでは迎撃が困難になっているとのこと。ウクライナは米国製の防空兵器への依存をさらに強いられる状況に追い込まれているという。
トランプ大統領は今月4日、突如パトリオットミサイルをウクライナに追加支援すると表明したが、ウクライナ国内では「一時的な対処にすぎない」との懸念の声が上がっている。
トランプ大統領は2月にウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領と公に言い争った後、軍事支援の停止を決定したが、数週間後には再開した。そして今月1日にも一時的に支援を中断したものの、プーチン大統領との通話で進展が見られなかったことから再び支援を表明するなど、態度を変え続けている。
ウクライナの現地メディア「キーウ・インディペンデント」は「トランプ大統領の武器支援に関する姿勢の変化が長期的な傾向になるとは考えにくい」とし、「慎重な見方が強まっている」と伝えている。
米政権の予測不能な対応に慣れつつあるウクライナでは、依然として「アメリカを当然の同盟国として信じてはいけない」という警戒感が根強いという。
ウクライナ戦争がいまだ解決策を見いだせない中、ローマ教皇レオ14世が和平会談の主催に意欲を示している。バチカンは9日、教皇がゼレンスキー大統領と面会し、和平会談の開催を提案したと発表した。これまで教皇による仲介の意向は間接的に示されてきたが、こうした意思を直接伝えるのは初めてだという。
ただし、ロシア政府は北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるイタリアのバチカンを和平会談の開催地として「適切ではない」との立場を崩しておらず、実現の可否は依然として不透明だという。
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