先月7日、日本最東端の島である南鳥島の南西300㎞の海上で、中国の1号空母である「遼寧」が駆逐艦などと共に姿を現した。遼寧は翌日も搭載戦闘機とヘリコプターを発進させ、軍事訓練を実施。遼寧が活動した海域は、日本の伊豆半島、グアム、サイパン、インドネシアを結ぶいわゆる「第2列島線」の外側で、中国空母が第2列島線を越えたのは今回が初めてとなる。
青島を母港とする遼寧は、昨年5月末に出航。同月30日にはフィリピンのサマール島東54㎞まで接近し、早くも太平洋進出の意図を示した。遼寧だけでなく、2番目の空母「山東」を中心とする艦隊も、台湾の東に位置する宮古島の南東約549㎞の海域でJ-15戦闘機などを発進させ、日本や台湾を含む周辺国を緊張させた。中国国営メディア「環球時報」は「中国海軍がアメリカ同様、世界の海で空母艦隊を運用する可能性がある」と自信を示した。
「西太平洋の主導権を巡る対決」
中国の空母2隻が同時に太平洋で軍事作戦を展開したのは今回が初めてとされる。西太平洋に駐留するアメリカ軍も警戒を強めている。アメリカは特に今回の中国空母艦隊の動きがアメリカの空母の動向と連動していると分析。先月初めに南シナ海にいたアメリカ海軍ニミッツ空母打撃群がイスラエル・イラン紛争対応のため中東に移動した隙を狙ったとみている。
アメリカの「ニューズウィーク」は「太平洋第1列島線を越えて中国空母を共同展開したことは、長年アメリカが支配してきた地域で中国の戦力投射能力が向上していることを示す」と評価した。2000年代初頭から中国は西太平洋第1列島線内でアメリカ軍の接近を阻止する「接近阻止・領域拒否」(A2AD)戦略を採用。このため、中距離弾道ミサイル「DF-21」などを集中配備してきた。
しかし、中国が最近実戦運用中の遼寧・山東に加えて試験中の「福建」を含む3隻の空母運用体制を整えつつある中で、中国の戦略も変化しているとの見方が強まっている。中国が今後西太平洋で空母を基盤とした常時戦闘態勢を構築し、必要に応じてアメリカや同盟国を遠距離から遮断・牽制する能力を獲得しようとする戦略的意図があるとみられる。韓国国防研究院(KIDA)研究員のユ・ジフン氏は「従来のA2ADは中国周辺海域でのアメリカ軍接近阻止を目指す防御的概念に近かったが、今回の長距離機動訓練は中国が単なる沿岸防衛を超え、戦略的機動性と海洋支配能力の確保を目指す意図を示している」と分析する。「ニューヨーク・タイムズ」は「中国空母の太平洋進出は、有事の際に中国が日本のみならずアメリカとも西太平洋の主導権を巡って対抗できることを示している」と伝えた。
アメリカを上回る中国造船業…新型艦艇も多数建造
中国の急速な海軍力増強により、これまで太平洋の制海権を握ってきたアメリカは危機感を強めている。アメリカ議会調査局(CRS)の報告書によると、中国は昨年時点で234隻の軍艦(補助・支援艦を除く)を保有し、隻数では既に世界最大規模の海軍力を持つ。一方、アメリカ海軍の艦艇は219隻にとどまる。
もちろん、質的差異を考慮すれば、世界的にもインド太平洋地域の戦力でもアメリカが依然優位にある。最強の海上戦力とされる戦略原子力潜水艦(SSBN)では、アメリカがオハイオ級14隻を保有。中国は晋級(094型)原潜6隻のみだ。攻撃型原子力潜水艦(SSN)では、アメリカがバージニア級、シーウルフ級、ロサンゼルス級など53隻を保有し、6隻の商級(093型)潜水艦しかない中国を圧倒する。最も顕著な差は空母戦力だ。アメリカはニミッツ級とジェラルド・R・フォード級など11隻の空母を保有し、太平洋に5隻を配備。中国は実戦配備前の福建を含めても3隻にすぎない。
しかし、中国の急速な艦船建造ペースを考えると、アメリカも無策ではいられない。アメリカ海軍情報局(ONI)によれば、中国はアメリカの200倍以上の水上戦闘艦・潜水艦を生産可能だという。スイスのシンクタンク・GIS Reportsによると、中国の軍艦建造造船所は13か所(昨年時点)あるのに対し、アメリカはわずか7カ所。空母・原子力潜水艦を建造するアメリカ最大の造船施設であるバージニア州ニューポートニューズ造船所は、中国・上海の江南造船所の4分の1の規模にすぎない。
質的にも急速に追い上げている。アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)は、中国艦艇の約70%が2010年以降に就役したのに対し、アメリカ海軍艦艇は25%程度にとどまると分析。中国艦艇の新鋭化が進んでいることを示す。中国最新鋭の駆逐艦である055型(レンハイ型)は112基の垂直発射システム(VLS)を装備し、YJ-18とされる、射程300kmの超音速対艦巡航ミサイルを発射可能。GIS Reportsは「サイズ、速度、フェーズドアレイレーダーなどの性能を考慮すると、055型は地球上で最強の戦闘艦」と評価している。
「アメリカは無人・AIシステム活用を」との指摘も
アメリカの造船競争力の弱さを考えると、中国との格差はさらに拡大する可能性が高い。アメリカが最近、インド太平洋地域の同盟国との軍事演習だけでなく、日韓との造船協力を強化している背景がここにある。アメリカは日韓に艦船の修理・整備を委託。今年に入り、アメリカ軍艦の建造を同盟国に委託できるようにする「海軍即応態勢確保法」の制定も進めている。CSISは「日韓との協力を通じて中国の優位性を相殺できる」と分析する。
アメリカが艦船数で中国と競争するよりも、先進的な人工知能(AI)技術を活用した非対称的アプローチを取るべきだとの見方もある。米インド太平洋軍司令官のサミュエル・パパ氏は昨年6月、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で「ワシントン・ポスト」とのインタビューに応じ、数千機のドローンなどを配備して中国の台湾侵攻を阻止する「飽和攻撃」を展開すべきだと主張。中国艦隊が台湾海峡を渡ろうとした瞬間、AI機能を備えた無人潜水艇や無人水上艇、ドローンを先行投入して初動防御を行い、その後に正規戦力で追加支援に入るのが効率的だとの考えを示した。
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