
ウクライナ西部のリヴィウで、徴兵対象者を連行していた徴兵担当の軍関係者が刃物で刺され死亡する事件が発生した。前線の兵力不足を補うための強制徴兵が続く中、膨れ上がった反発がついに暴力へと発展した。
徴兵担当者への刃物攻撃で死者…同僚将校も負傷
ウクライナ軍「単なる反発ではなく武装抵抗」
4日(現地時間)、ウクライナ軍西部作戦司令部は、前日、徴兵担当者1人が身分確認中に刃物で刺され病院に搬送されたが死亡したと発表した。
軍によると、ユリ・ボンダレンコという徴兵将校は、リヴィウ中心部の路上で徴兵対象の男性を連行しようとした際、男性が振るった刃物により命を落としたという。
男は書類提示を拒否した上で将校の下腹部を刺し、さらに現場にいたほかの徴兵担当者の頭部を鈍器で殴ったり、催涙スプレーを噴射したりして逃走した。
ウクライナ警察は同日、37歳の男を拘束し、調査中だと明らかにした。
ウクライナ軍は事件直後に声明を出し、今回の攻撃を極めて重大な事案と位置づけた。
軍当局は「この事件は徴兵事務所との単なるトラブルではなく、武装抵抗だ」と指摘し「社会の一部の誤った行動が、戒厳令下で任務を遂行する軍人に致命的な結果を招いていることを示している」と懸念を示した。
「ロシア発のフェイクニュース?」…ウクライナでも現実として認識

2022年2月のロシア全面侵攻後、ウクライナ政府は戒厳令と全国的な総動員を宣言した。これにより27歳から60歳の男性はすべて徴兵対象となった。
当初は「祖国を守る」と志願帰国する男性が多かったが、戦争が長期化するにつれ入隊者は減少した。徴兵逃れのための健康診断ごまかしや賄賂など、兵役汚職が横行し始めた。
こうした状況を受け、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2023年、全国24地域の兵務局長を全員更迭し、各地の徴兵事務所を捜索するなど強硬策を講じたものの、大きな改善には至っていない。
むしろ「軍が街中で男性を拉致するように強制徴兵している」という噂が広がり、社会不安は強まった。
民心の悪化を抑えるため、ゼレンスキー大統領は徴兵対象年齢を27歳から25歳に引き下げ、18歳から24歳の男性には無利子の住宅ローン制度などのインセンティブを提示し、1年間の兵役制度を新設した。
それでも米紙ワシントン・ポスト(WP)などがウクライナの強制徴兵を「人権侵害」と批判し、国際的議論を呼んだ。
ウクライナ強制徴兵、欧米メディアも「人権問題」と指摘
怒りの矛先は徴兵担当者へ…暴力事件相次ぐ
現地では、徴兵担当者が路上や商業施設、住宅地で対象者を確保する場面が頻発しているという。
ウクライナ当局はロシア発のフェイクニュースと主張してきたが、実際には、バス乗客の中から男性を強制的に引きずり降ろす姿や、不意の身分確認で男性を連行する様子がSNS上で多数共有されている。
戦争のストレスと社会的疲弊が限界に達する中、些細な摩擦が大規模な暴力へと発展する事例が増えている。
特に徴兵担当者を狙った直接的な犯罪が目立つ。
徴兵担当者は、前線勤務が困難になった負傷兵や前線経験者によって構成されている。前線を離れ動員業務に従事する彼らが、皮肉にも暴力の標的になっている。
昨年10月には、ウクライナ南部オデーサの卸売市場で住民らが徴兵担当者を集団で襲撃したほか、同時期にポルタヴァでは男が発砲し徴兵担当者2人が負傷した。
戦争5年目へ…ウクライナ動員を巡る対立は一層深刻化の恐れ

来年で5年目に入るウクライナ戦争が、米国やロシア、欧州を巻き込み終結の兆しを見せない場合、動員問題をめぐる社会対立はさらに深まるとみられる。
長期戦による疲労蓄積と前線の兵力不足、民間男性の参戦忌避、人権を無視した強制徴兵、そしてその反発という悪循環が続く可能性が大きい。
現地では、今回のリヴィウ事件について「戦時動員体制と社会の反発との構造的亀裂を象徴する事案だ」との見方が出ている。














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