
目に見えないほど小さな微細粒子の中でも、粒径2.5マイクロメートル(μm)以下の超微細粉塵は、その微細さゆえに呼吸とともに肺の奥深くまで侵入し、体内で炎症反応を引き起こすことが知られている。こうした粒子への慢性的な曝露は、呼吸器系のみならず心血管疾患のリスクを高める可能性も指摘されてきた。そのため、微細粉塵や超微細粉塵の濃度が高い状況では、高齢者を中心にマスクの着用が推奨されている。また、体内の防御機能を保つ観点から、空気の状態が悪化している時ほど適切な食事管理が重要とされている。
一方、韓国では大気汚染への対策として、豚バラ肉(サムギョプサル)に代表される脂肪分の多い食品を摂取するのが良いとする生活上の俗説が広く知られてきた。脂肪が体内の有害物質を洗い流すという考え方に基づくものだ。しかし、この俗説には医学的な根拠が乏しいとされている。むしろ、微細粉塵に含まれる有害物質の多くは脂溶性であり、高脂肪食品の摂取が体内への吸収を促進し、逆効果をもたらす可能性が指摘されている。
韓国の食品医薬品安全処は、微細粉塵の濃度が高い時には、十分な水分補給とともに、抗酸化作用や炎症緩和、重金属の排出に寄与するとされる食品の摂取を繰り返し推奨してきた。具体的には、セリ、梨、ニンニク、海藻類(ワカメ、コンブ)、青魚(サバ)、キノコ、緑茶、タマネギなどが挙げられる。これらの食品には科学的な裏付けがあり、特に果物や野菜に豊富に含まれるビタミンCは、微細粉塵や大気汚染による呼吸器の炎症を軽減する成分として以前から知られている。
オーストラリアのシドニー工科大学と、同国のウールコック医学研究所の研究チームは、ビタミンCが超微細粉塵によって気管支や肺組織に引き起こされる炎症を、どのような仕組みで緩和するのかについて詳細な研究を行った。研究では、マウスを用いた動物モデルと、ヒトの肺細胞を用いた実験室モデルが用いられた。
その結果、超微細粉塵への曝露によって、炎症細胞の増加、インターロイキン1β、TNF-α、インターロイキン17といった炎症性サイトカインの数値上昇、さらには酸化ストレスの増大が確認された。また、細胞内の主要なエネルギー産生器官であるミトコンドリアが膨張・損傷し、有害な活性酸素の生成が促進され、細胞破壊へとつながることも明らかになった。
しかし、超微細粉塵に曝露されたマウスにビタミンCを投与したところ、炎症指標が低下し、スーパーオキシドジスムターゼ2やリン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼといった抗酸化酵素の活性が回復した。さらに、ミトコンドリアの構造と機能も維持されることが確認された。これらの効果は、ヒトの肺細胞を用いた実験でも同様に認められている。
この研究成果は、環境・公衆衛生分野の国際学術誌「エンバイロメント・インターナショナル」に掲載された。
なお、今回の研究でマウスに投与されたビタミンCの量は、ヒトに換算すると1日約1,000ミリグラムに相当する高用量であった。ただし、マウスとヒトでは必要量や代謝が異なるため、このレベルの高用量ビタミン補充療法を一般的に推奨することは難しい。
研究チームは、特定の栄養素に偏るのではなく、ビタミンCを含む抗酸化物質、ミネラル、食物繊維をバランスよく摂取し、十分な水分補給を行うことが重要だと指摘している。特にビタミンCは水溶性で調理過程で失われやすいため、可能な限り新鮮な果物や野菜として摂取することが望ましい。特定の食品を過剰に摂取したり、サプリメントに過度に依存したりするのではなく、日常的にバランスの取れた食生活を維持することが、健康を守る第一歩となる。













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