
新型コロナウイルスの感染拡大期に中南米を経由して米国へ不法入国していた中国人が、トランプ政権の厳格な取り締まりで動きを封じられ、欧州へ向かうケースが増えているとの報道が出た。
独ドイチェ・ヴェレ(DW)は16日、中国人の密入国者がルートを切り替え、バルカン半島を経由して欧州に入ろうとしており、ドイツが最終目的地になりつつあると伝えた。
DWによると、中国人の難民申請はこの5年間、増加傾向が続いている。今年1~11月の申請は約1,600件に上り、ここ数年で最多水準となった。9月時点では、中国はアフガニスタン、シリア、ソマリアなどに続き、難民申請者の出身国別で8位に入ったという。
これまで密航あっせん業者は、中南米諸国を通じて米国への入国を手配することが多かった。だがエクアドルが2024年7月、中国人のビザ免除入国を停止し、中南米へ入る通過ルートが細った。さらにトランプ大統領が1月に就任して以降、メキシコ国境での不法移民対策が強化され、バルカン半島の東欧諸国が新たな経由地として浮上した。
中国人にビザ免除入国を認め、中国と友好関係を維持するセルビアが、かつてのエクアドルのように通過点として機能しているという。密航あっせん業者は、セルビアの首都ベオグラードを経由し、同じく中国人にビザ免除のボスニアが第2の関門になると説明しているとされる。
中国人旅行者はバスでボスニアに入り、国境の町ビハチを経てEU加盟国のクロアチアへ向かう。ビハチからクロアチアに入るには、山や森を越えて不法に越境しなければならないという。
いったんクロアチアに入ると、EU域内やシェンゲン協定圏での移動のしやすさを利用し、列車や長距離バスでスロベニア、イタリア、オーストリアなどを経由してドイツへ向かう流れだとDWは報じた。このルートは中東、北アフリカ、南アジア出身者の間で長く使われてきたが、近年は中国人も加わりつつある。ただ、規模は中南米経由で米国を目指した動きに比べれば小さいとも伝えた。
ワン・チン(仮名・20)は2024年、クロアチア国境警察に複数回拘束され、ボスニアへ送還された。その後も密航あっせん業者に2,000ユーロ(約36万円)を支払い、山や川を越えて越境したという。ボスニアを出てから1週間ほどでドイツに入り、亡命を申請したが、適応できず帰国したとされる。
DWはセルビア、ボスニア、ドイツで20人超の中国人移民に取材したとしており、多くは政治的反体制派や政治的迫害の被害者ではなく、生活条件の改善を求めた経済的移民だったという。経済事情に加え、食品の安全性、公的医療、教育、次世代の将来への不安などが出国の動機になったとの証言も紹介した。
ジャン・ミン(仮名・43)は、かつて高給取りの遠洋航海の船員だったが、その働き方では家族の長期的な生活を支えられないと感じたという。さらに、子ども2人が学校で迷彩服を着て革命歌を歌うなど、いわゆる愛国教育を受けていることにも反発があった。本人は、中国の現状を変えられない以上、出国以外に選択肢はなかったと話した。
ドイツでは到着後に難民申請をすると、数か月にわたり複数段階の受け入れ施設に割り当てられる。法律に基づき、住居や食事の提供、健康保険、社会統合プログラムの対象となり、毎月約400ユーロ(約7万円)の生活費も支給される。こうした制度面の手厚さが、他のEU諸国と比べてドイツを目的地として意識させているという。
一方で、ドイツで中国人の難民申請が認められる割合は低下している。DWが引用した統計では、今年1~11月に中国人の申請約2,000件のうち半数以上が却下された。申請者は不服申し立てが可能だが、手続き全体では2~3年を要する場合があるという。















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