
ドナルド・トランプ米政権が、半導体設計に不可欠なEDA(Electronic Design Automation)ソフトウェアの対中輸出を制限する新たな規制に踏み切った。米商務省は主要サプライヤー3社に対し、中国への技術供給を停止するよう通達を出しており、中国のAI・半導体産業にさらなる打撃を与える可能性がある。
この措置は、スイス・ジュネーブでの米中通商協議を経て関税合意に達し、いったん“休戦”状態に入った直後に発動されたものであり、米中関係の再緊張が懸念されている。
米EDA大手3社に対し、技術供給の中止を指示
米商務省の産業安全保障局(BIS)は23日、ケイデンス・デザイン・システムズ、シノプシス、シーメンスEDAの3社に対して、中国向け技術供給の中止を要請する書簡を送付した。これら企業は中国のEDA市場において約80%のシェアを占めており、影響は業界全体に及ぶ可能性がある。
EDAソフトは回路設計の自動化やテストに用いられ、最先端半導体の開発において欠かせない基盤技術とされる。FTおよびブルームバーグによれば、今回の規制の具体的な範囲は不明だが、ある情報筋は「中国市場からの完全撤退を意味する可能性もある」と指摘している。
株式市場にも動揺、ケイデンスは10%超の急落
実際、規制発表の余波は市場にも波及した。2024年度、ケイデンスは中国で5億5,000万ドル(約808億5,000万円)を売り上げており、同社全体売上の12%を占める。シノプシスは約10億ドル(約1,470億円)(同16%)を記録していた。
この日、シノプシスの株価は9.6%、ケイデンスは10.7%下落。ケイデンスにとっては2020年パンデミック以降で最大の下げ幅となった。
AI半導体規制の一環か、NVIDIAにも影響
今回の措置は、中国のAI関連半導体開発を抑え込むための一連の政策の延長線上にある。バイデン政権も2022年にEDAソフトの中国向け輸出を部分的に制限しており、トランプ政権も今年4月、NVIDIAのH20チップについて対中輸出に当局の許可を義務付ける規制を発表していた。
NVIDIAのCEOであるジェンスン・ファン氏は「これらの規制は中国のAIエコシステムを実質的に制限できていない」とし、政府の対応に対して繰り返し懸念を表明している。
一方、FTは「米国による規制強化の影響で、中国のエンピリアン・テクノロジー、プリマリウス、セミトロニクスといった国産EDAベンダーが、近年シェアを急拡大させている」と報じている。
米中通商関係への影響も懸念
今後、今回の輸出規制が米中通商交渉にどのような影響を及ぼすかも注視されている。中国商務省はすでに、米国が同盟国に対して中国製半導体の排除を求めている点について強く反発。さらに「今回の措置は、ジュネーブでの米中高官協議で達成された合意を深刻に損なうものだ」と非難している。
これは、米商務省が13日に「ファーウェイ製AI半導体“Ascend”を採用する国は、米国の輸出管理規定に違反する可能性がある」と警告したことに対する中国側の反発とみられる。