
5月29日、米ハーバード大学の卒業式で学生代表スピーチを行った中国人留学生・張雨融(チャン・ユーロン)が、中国のSNS上で賛否両論の的となっている。卒業式直後には、多様性と国際協力を訴えるその姿勢に称賛の声が集まったが、やがて彼女の家族的背景をめぐる疑念が浮上し、一転して激しい論争を巻き起こしている。
張氏はハーバード大学ケネディスクール(行政大学院)で国際開発学の修士号を取得。スピーチでは「私たちの人間性を守る(Defending Our Humanity)」をテーマに、外国人の友人のために中国語の洗濯機説明書を翻訳したエピソードを紹介し、多様性と寛容の重要性を強調した。
米メディアによれば、張氏は近年まれに見るハーバード卒業式の中国人代表スピーカーであり、その映像は中国国内で急速に拡散。中国風刺繍をあしらった衣装や、トランプ前大統領の「留学生入国制限」政策を暗に批判したとされる発言内容も注目を集めた。
しかしその後、彼女の経歴に関する情報が明るみに出ると、状況は一変する。
「特権層の娘では?」 推薦状とNGOをめぐる疑念
香港メディア「明報」は6月2日、張氏が2022年に中国生物多様性保護・緑色発展基金会(通称:中国緑発会)で長期インターンを務め、同団体の周晋峰(ジョウ・ジンフォン)事務総長からの推薦状をもとにハーバードへ進学したと報道。さらに張氏の父親が同団体の特別基金の執行理事を務めていたことも判明し、「推薦は利益供与ではないか」との疑惑がSNSで拡散した。
ネット上ではすぐさま公平性を疑問視する声が相次ぎ、中国緑発会は関連する公式投稿を削除するなど、火消しに追われた。
「中国共産党のプロパガンダが浸透?」との批判も
論争は想像以上に拡大し、2日には微博(Weibo)の関連ハッシュタグ「#ハーバード大学スピーチ 中国人女子学生の窮地#」が1日で4,000万回以上閲覧される事態に。あるユーザーは「中国共産党のプロパガンダがハーバードにまで及んでいる」と指摘。別の投稿では「彼女の発言は単に西側のポリティカル・コレクトネスに迎合したものだ」とし、中国緑発会が西側のNGOを通じて中国に思想的影響を及ぼそうとする“代理人”ではないかという見方まで浮上している。
実際、中国緑発会は中国科学技術協会の主導で設立された国家レベルの公共財団であり、その政府色の強さも今回の反発の一因となっている。
ケネディスクールの「党校」化指摘も
米ウォール・ストリート・ジャーナルは1日、「ハーバード大学ケネディスクールは中国共産党の『海外党校』と揶揄されるほど、幹部留学の定番となっている」と報道。過去には劉鶴・前副首相や李源潮・前国家副主席なども同校の卒業生であり、中国共産党との結びつきが指摘されてきた。
実際、上海の党機関紙『上観新聞』は2014年、「中国共産党の海外党校ランキングを作るなら、ケネディスクールが1位になる」とまで表現している。
張氏のスピーチ自体は多くの人々の共感を呼んだが、その裏にあるネットワークと構造が疑念を呼び、思わぬ波紋を広げている。