
「米国の国内総生産(GDP)成長率、インフレーション、企業の業績などあらゆる指標が悪化しているにも関わらず、株価は上昇している。これは、投資家が過度な楽観主義に陥っていることを示している」
ラザード(Lazard)のチーフ・マーケット・ストラテジスト、ロナルド・テンプル氏は22日、韓国経済新聞とのインタビューで「米国株式市場は、ほぼ最高値に達している」と述べ、市場に広がる楽観論に対して警戒を促した。ナスダックやS&P500をはじめとする主要指数が連日最高値を更新している現状は「異常だ」とのことだ。ラザードでマクロ経済戦略と市場展望を統括するテンプル氏は、ウォール街で地政学の専門家としても知られている。
テンプル氏は、米トランプ政権が関税政策を何度も覆したことが主要な要因であると指摘した。彼は「4月の相互関税の発表後、米国の株式、債券、通貨が一斉に売られたが、その結果、米政府は慌てて政策を延期し、株価が回復した」と説明し、「状況が悪化すれば、政府が再度政策を変えるのではないかという楽観論が広がった」と述べた。
テンプル氏は「トランプ関税のD-day」である来月1日以降、市場が予想外の動きをする可能性があると警告した。彼は「米株価指数が10〜15%下落する可能性がある」と述べた。関税がインフレを煽る懸念があるためだ。また、「インフレによって高金利が維持されれば、当然のことながら株式の株価収益率(PER)は低下する。そして、労働者の実質賃金上昇率が鈍化すれば消費が落ち込み、結果として企業の業績も悪化するだろう」と語った。

さらに、今年の米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げの可能性が「ゼロ」に近い点も悪材料として挙げられた。テンプル氏は「インフレ率が高い状況下で、FRBが金利を引き下げることはできない」と述べ、「来年になってようやく利下げが始まるだろう」と予測した。
4日に発効した「大きくて美しい1つの法案(OBBBA)」に含まれる強力な移民政策も、利下げの時期を遅らせる要因となる。テンプル氏は「もし移民を摘発・追放し、米国内の労働力が減少すれば、企業は人件費の負担増に直面する」とし、「これがまたインフレ圧力として作用する可能性がある」と語った。
テンプル氏は、関税の導入後、米国株式市場のボラティリティが高まると予想しているため、ポートフォリオにおける米国の比率を調整する必要があると助言した。代替市場として、新興国、日本、欧州などを推奨した。彼は「今後5〜10年は、新興国が他市場に比して高いパフォーマンスを示すだろう」と述べ、「企業統治が改善されつつある日本、そして成長のための変革が進む欧州も前向きに評価される」と話した。
また、韓国も魅力的な投資先として挙げられるが、低い資本利益率(ROC)の問題が解決されれば、さらに投資魅力が高まるだろうと分析した。ROCは、投入された資本に対してどれだけの実質的な利益を上げたかを示す指標である。
一方、中国市場に対しては慎重な姿勢を見せていた。最近の中国の小売売上高や不動産価格などの指標が悪化しているためである。中国市場が長期的に成長するためには、根本的な財政構造改革が先行すべきだと付け加えた。テンプル氏は「昨年9月、中国政府が景気刺激策を発表すると、その直後に市場は2週間で30〜40%急騰したが、改革が伴わなかったため、株価は再び徐々に下落した」と述べ、「長期にわたり高い成長を維持するためには、社会保障制度の拡充や地方政府の財政構造改革が必要だ」と語った。
最後に、テンプル氏はイラン・イスラエルの紛争について「未だ危機状態が完全に収束していない」と言及した。イスラエルがイランに対する空中戦で優位を保ちつつあることに加え、イランが核兵器開発を継続している可能性があるためである。ただし、武力衝突が再燃してもエネルギー価格への影響は限定的だろうと予測した。彼は「仮にイスラエルがイランに対して追加攻撃を行っても、ホルムズ海峡を通じたエネルギー供給に支障がなければ、原油価格の上昇幅は大きくならないだろう」と説明した。
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