
米電気自動車(EV)メーカーのテスラ取締役会は、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)に対し、総額1兆ドル(約148兆5,000億円)規模の段階的報酬を支給する新たな報酬パッケージの承認を巡り、株主への説得工作に総力を挙げている。その中心に立つ人物が、取締役会議長のロビン・デンホルム氏である。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が14日(現地時間)に報じたところによると、デンホルム氏は「マスク氏を引き留めるには莫大な報酬が必要だ」と強調し、そうでなければ彼が会社を去る可能性があるという暗黙の警告を投資家に伝えているという。しかし、テスラの納車台数減少、2023年に投入されたサイバートラックの不振、自動運転事業の遅れなど業績低迷の中で、超大型の報酬案を推進するのは異例だとの見方も出ている。
取締役会がマスク氏への報酬案を強行する理由は、マスク氏抜きのテスラを想像し難く、またロボットや人工知能(AI)分野への転換という分岐点において、彼のリーダーシップが不可欠だと判断しているためだ。デンホルム氏は「マスク氏が率いる時、会社に訪れる機会は明らかにより大きい」と語っている。
WSJは「デンホルム氏は名目上マスク氏の上司だが、実際には彼の意向を把握し、満足させることに多くの時間を費やしている」と伝えた。マスク氏が企業戦略や投資家の信頼に及ぼす影響力が非常に大きいため、取締役会すら彼の決定を無視できないのだ。
デンホルム氏は2016年、マスク氏が会長兼大株主だった財政難の太陽光発電会社の買収を主導的に説得し、推進した経歴がある。また、昨年デラウェア州裁判所が、総額500億ドル(約約7兆4,250億円)を超える2018年のマスク報酬案を手続き上の問題や一般株主への不公平を理由に無効とした際には、これを再承認させるべく株主への再説得にも乗り出していた。
年初、デンホルム氏が所属する特別委員会は、既存の報酬案を維持しつつ、マスク氏の関心を引き留めるための新たな方策を模索し始めた。テスラによれば、マスク氏は少なくとも25%の議決権確保と2018年の報酬案全額の支給保証がなければ、テスラを去る可能性があると示唆したという。また、他の企業活動や政治活動に対する制約は受け入れられないとの立場も明確にした。
デンホルム氏は「マスク氏がテスラに十分な時間を割いていないと懸念したことはない」としつつも、「彼の時間とエネルギーを最大限会社に集中させたい」と述べ、政治活動とテスラへの専念度をめぐり矛盾する姿勢を示した。ただし、新たな報酬案にはマスク氏の勤務時間や専念度に関する具体的な条件は盛り込まれていない。
WSJは「株主はマスク氏の報酬論争よりも、将来の成長エンジンや製品競争力によってテスラの価値が高まることに期待している」と報じた。
一方、テスラは11月6日の株主総会で新たな報酬パッケージに関する投票を実施する予定である。
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