イェール大学予算研究所の分析「今後10年、上位10%を除く全ての層で実質所得が減少、下位10%は年収の6.7%減」

ドナルド・トランプ米大統領が7月に署名した「一つの大きく美しい法案(One Big Beautiful Bill Act、略称OBBBA)」は、共和党が「米国史上最大の減税」と誇る法案だ。しかし、イェール大学予算研究所の最新分析によると、その効果は大多数の米国家計にとって逆効果となる可能性が指摘されている。
15日(現地時間)、CNNが報じたところによれば、イェール大学の研究チームの試算では新規減税措置によって米国家計が受ける恩恵は平均年800ドル(約11万7,205円)にとどまる一方、トランプ政権が輸入品に課した関税による追加負担は平均2,300ドル(約33万6,964円)に上る見通しだという。これは、減税効果の約3倍に相当する。
研究所の政策分析担当ジョン・リコ副所長はCNNに対し、「関税による税負担増が共和党の減税効果を十分に上回る」と指摘した。
関税と減税を総合すると、上位10%のみが利益、中間層・低所得層は大打撃
分析によれば、減税と関税の効果を総合した場合、今後10年間で利益を得るのは富裕層の上位10%のみとされるという。
所得階層別に見ると、上位10%平均年収51万8,000ドル(約7,589万7,959円)は5,450ドル(約79万8,501円)の関税負担が発生する一方、減税で1万3,600ドル(約199万2,449円)の恩恵を受け、差し引き年間8,200ドル(約120万1,329円)の純利益となる。
これに対し、中間層の平均年収10万5000ドル(約1,538万2,883円)から12万2000ドル(約1,787万2,771円)は1,200ドル(約17万5,797円)の減税効果を得ても、2,200ドル(約32万2,274円)の関税負担により差し引き損失を被ることになる。
最も大きな打撃を受けるのは低所得層だという。下位10%平均年収3万9000ドル(約1,303万7,488円)未満の世帯は、関税で約1,350ドル(約19万7,759円)、さらに減税案に伴う福祉削減で1,200ドル(約17万5,787円)を失い、年間2,600ドル(約38万873円)の所得減少すると分析されており、これは平均年収の6.7%に相当する。
高所得層は減税メリットが大きい一方、低所得層は関税の打撃がより深刻
研究チームは「関税は輸入品への実質的な消費税であり、所得に占める消費支出割合が大きい低所得層ほど打撃が大きい」と指摘した。別の分析では、2027年時点で高所得層の可処分所得が1%減にとどまるのに対し、低所得層は3.5%減となると予測している。
今回の減税法案にはチップ課税の猶予や児童税額控除の拡大などが含まれているが、多くは既存措置の延長にすぎず、新たに得られる恩恵は世帯平均で800ドル(約11万7,189円)にとどまる。既存措置を含めても平均減税額は3,000ドル(約43万9,463円)程度とされる。
さらに、今回の減税案には、フードスタンプ(低所得層向け食料支援)やメディケイド(低所得層向け医療保険)など社会保障予算の削減も盛り込まれており、数百万人が恩恵を失う見込みだ。関税負担と重なることで、数十万人が貧困線以下に転落する可能性があると懸念されている。
CNNは「シンクタンクごとに試算方法は異なるが、結論は同じだ。減税は高所得層に偏り、関税は全ての層に広く負担を与えるが、低所得層ほど打撃が大きい」と伝えた。
財政効果は相殺、不平等拡大の懸念
米議会予算局(CBO)は、現行の関税措置によって今後10年間で連邦財政が約4兆ドル(約586兆25億1,000万円)改善すると見積もる一方、減税法案によって同規模の国債増加が見込まれるとしている。
シンクタンク「ケイトー研究所」のアダム・ミシェル研究員はCNNに対し、「仮に関税が減税を相殺しても、両政策は米国社会の不平等を拡大する」と警告した。「二つの政策変化が結合することで、長期的な安定や公平性を損なう歪んだ不均衡な体制となりつつある」と批判した。
CNNはまた、減税は特定の利害関係者に恩恵が集中し、関税も特定産業に打撃を与えると指摘した。
議会予算局は7月、減税法案の成立直後にも「下位10%の所得層は平均1,600ドル(約23万4,390円)の実質所得減少に直面する」と試算しており、イェール大学予算研究チームも「今後10年間で下位20%の所得が平均2.9%減り、中下位層も平均0.4%の減少が予想される」との報告を公表している。
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