航空機も「エアバッグ時代」へ…墜落時2秒で作動する新技術

インドで発生したエア・インディア機墜落事故をきっかけに、航空機事故時の生存率を高めるAI制御のエアバッグシステムが開発された。コンピューターシミュレーションでは衝撃を60%以上軽減する成果を示した一方で、航空機の重量増加という現実的な課題も浮き彫りになっている。
米科学誌ポピュラーサイエンスによると、インドのビルラ工科科学大学のエシェル・ワシム氏とダルシャン・スリニバサン氏が「プロジェクト・リバース」と名付けた新しい航空安全システムを発表したという。
この開発の契機となったのは、今年6月に発生したエア・インディア機の墜落事故だ。インド・アーメダバードを出発しロンドンに向かっていたエア・インディア機は、離陸30秒後に墜落した。乗客のほぼ全員が犠牲となり、過去10年で最悪の航空事故となった。
この事故を受け、研究者らは既存の航空安全研究が事故防止に偏重しており、墜落が避けられない場合に生存可能性を高める技術が不足していることに着目した。これを受けて開発に乗り出したという。
AIが2秒で巨大エアバッグを展開
今回開発されたリバースシステムは、機体各所に設置されたセンサーで高度、速度、エンジン状態、進行方向、操縦士の反応などを監視する。AIが高度3,000フィート(約914メートル)以下で墜落が不可避と判断すると、約2秒で機首、機体底部、尾部から巨大なエアバッグを展開する。操縦士にはAIの判断を覆す短い猶予が与えられるが、介入がなければ自動的に作動する仕組みだ。
このエアバッグは衝撃吸収素材と特殊な液体を組み合わせた構造で、衝突エネルギーをさらに減衰させる。

エンジンが稼働している場合は逆推進が自動で始動し、機体の速度を最大20%抑制させる。衝突後は赤外線信号機、GPS座標、照明が自動的に作動し、救助活動を支援する。
シミュレーションでは衝撃を60%以上軽減できる結果が得られたとされ、現在は12分の1スケールの模型を用いた試作段階にある。研究チームは航空機メーカーや政府機関に働きかけ、実機試験を目指している。
エアバッグの重量と空気抵抗が課題
航空専門家からは慎重な声も上がっている。
米海軍出身で航空安全コンサルタント会社「AVセーフ」を率いるジェフ・エドワーズ氏は「最大の課題は重量増加だ」と指摘する。数十年に一度しか起こらない極めて稀な事故を対象に、すべての航空機が余分な重量や制約を負うのは非効率的だと懸念を示した。
重量60万ポンド(約272トン)を超える旅客機の衝撃を軽減するには、エアバッグも巨大化せざるを得ず、それによる重量や空気抵抗の増加が新たなリスクを生むとの見方もある。
2025年ジェームズ・ダイソン賞の候補に
「プロジェクト・リバース」は現在、革新的な工学アイデアを表彰する「ジェームズ・ダイソン・アワード2025」の候補に選ばれており、最終結果は11月5日に発表される予定だという。
開発者のワシム氏とスリニバサン氏は「リバースは単なる工学技術ではなく、エア・インディア機事故への私たちの応答だ。生存可能性をあらかじめ設計し、すべての着陸試行が失敗した後でも希望をつなぐ」と開発の意義を語っている。
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