
米トランプ政権が、ウクライナ軍が西側諸国から受け取った一部の長距離ミサイルに対する使用制限を解除したと、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が22日(現地時間)に報じた。WSJは、これによりウクライナ側がロシア領内の目標に対する攻撃を強化し、ロシア側に圧力をかけることが可能になったと分析した。
ウクライナ軍参謀本部は、爆発物とロケット燃料を生産するロシアのブリャンスクにある軍需工場を、英国が提供した空中発射巡航ミサイル「ストーム・シャドウ」で21日に空爆し、「成功裏に命中した」とソーシャル・メディアで明らかにした。
ウクライナにストーム・シャドウを提供した国は英国だが、攻撃目標設定に必要なデータを提供する米国が、ウクライナの保有するストーム・シャドウの使用を制限できるとWSJは説明している。
WSJによると、別途発表なしに実施された今回の制限解除措置は、米国が承認権をピート・ヘグセス米国防長官から、北大西洋条約機構(NATO)のアレクサス・グリンケウィッチ欧州連合軍最高司令官に戻す形で下されたという。
承認権が移管された時期は、米国のドナルド・トランプ大統領がロシアへの圧力を強化しようと試みていた10月初旬頃であり、当時トランプ大統領は射程が1,500kmを超え、モスクワまで攻撃可能なトマホーク・ミサイルの提供を求めるウクライナ側の要請を検討中だった。
しかし、トランプ大統領は今月16日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と通話した後、17日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とホワイトハウスで会談する際、トマホーク提供要請を拒否した。

トマホーク支援を求めるゼレンスキー大統領の要請を、トランプ大統領が拒否したため、西側がロシア側と交渉する際の影響力が制限されるとの見解が、分析家たちの間で示されているとWSJは伝えた。国防総省とウクライナ軍参謀本部は、WSJのコメント要請には即座に応じなかった。
ホワイトハウスの広報担当者は声明で「この戦争は、トランプ大統領が就任していれば起こらなかった戦争であり、この点はプーチン大統領も認めている。トランプ大統領は、この戦争を終結させるために努力している。また、NATO同盟国が米国製武器を購入できるようにする歴史的な合意を交渉した」と述べた。
このWSJ記事が出た後、トランプ大統領は、自身が設立したソーシャル・メディア「トゥルース・ソーシャル」において「ウクライナがロシア深部まで長距離ミサイルを使用できるよう、米国が承認したというのはフェイクニュースだ!米国は、そのミサイルがどこから来ようと、ウクライナがそのミサイルで何をしようと、全く関係がない!」と主張した。
英国とフランスが共同開発した空中発射巡航ミサイルである「ストーム・シャドウ(フランス名:スカルプ)の射程は約250kmで、米国製地対地ミサイル「ATACMS」の300kmと同程度である。このため、ウクライナ軍がストーム・シャドウやATACMSを用いて国境に近いロシア領内の目標を攻撃することは可能だが、モスクワなどウクライナから遠い場所をミサイルで攻撃するには、トマホークなど射程がはるかに長いミサイルが必要である。
前任のジョー・バイデン前政権末期にウクライナ軍のストーム・シャドウとATACMS使用が承認されたが、トランプ政権2期目発足後、今年春に新たな承認手続きが設けられ、ヘグセス長官が最終承認権を持つようになってからは使用承認がなされていなかった。
NATO広報室のマーティン・オドネル大佐は「ウクライナは、クレムリン(ロシア大統領府)の無意味な戦争を可能にする、ロシア領内深部の合法的な軍事目標を攻撃する驚異的な能力を持っている」と述べ、「ウクライナは我々の許可を得る必要はない」と語った。
米政府は最近、射程240~450kmに達する射程延伸型攻撃弾(ERAM)3,350基を、防衛産業がウクライナに販売できるよう承認した。ウクライナのATACMS在庫は少量残っており、トランプ政権は追加のATACMS支援や、米欧州軍がウクライナのATACMS使用を承認するかについては立場を明らかにしていない。
欧州の指導者たちとゼレンスキー大統領は21日、共同声明を発表し、プーチン大統領が平和を望むまで「ロシアの経済と防衛産業に対する圧力を強化する」と誓った。
米国財務省外国資産管理室(OFAC)は22日、「ウクライナ戦争終結のための平和交渉にロシアが真剣に臨んでいないため、ロシアに追加制裁を課す」と発表した。追加制裁の対象は、「ロスネフチ」、「ルクオイル」などのロシア大手石油企業2社とその子会社である。財務省は「ロシアのエネルギー部門に対する圧力を強化し、クレムリンが戦争資金を調達し、弱体化した経済を支える能力を低下させる」ことを制裁の目的と説明した。
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