米国、中国・ロシアの偵察衛星を妨害する新兵器を実戦配備へ
既存システムと連携し完成段階に
世界各地で展開範囲が拡大、中国の衛星網に対抗

米国が、中国やロシアによる偵察・情報収集用衛星の通信を妨害する新型兵器を本格的に配備し始めた。
中国が約1,000基に及ぶ衛星を宇宙に展開し、米軍の空母や戦闘部隊の活動をリアルタイムで監視していることから、米国は新兵器の導入で中国の「目」を遮断しようとしている。宇宙が米中の軍拡競争の新たな舞台になりつつあるとの見方が出ている。
ブルームバーグ通信によると、米宇宙軍は2025会計年度(2025年10月から2026年9月)中に、新兵器「メドランズ」と「リモート・モジュラー・ターミナル(RMT)」を世界各地に配備する計画だという。
米軍はこれまで、敵の衛星通信を妨害する装備として強力なアンテナを備えた「対抗通信システム(CCS)」に依存してきた。しかし、CCSは大型でトレーラーでの移動が必要なうえ、迅速な展開や秘匿性に欠けるという課題があった。また、設置や撤収に時間がかかり、大型電力線や冷却装置を要するため作戦範囲が限定的だった。
今回配備されるメドランズは、CCSを軽量化した改良版だが、機能は大幅に強化されている。従来のCCSが、人が手動で妨害する周波数帯や衛星を指定する方式だったのに対し、メドランズはAIを活用して衛星信号を自動識別し、即時に対応できるよう設計されている。
一方、RMTは小型で遠隔操作が可能なため、複数地点に分散配置して特定の周波数を一時的に妨害する役割を担う。すでに海外の要所に展開が始まっているが、正確な数や配置場所は明らかにされていない。
ブルームバーグは「CCS・メドランズ・RMTの3種が相互補完的に機能し、シナジーを発揮するだろう」とし「米国防総省は新たに3段階の宇宙防衛能力を手に入れた」と評価した。
米国は宇宙分野で行われる中国の軍備強化に警戒感を示している。米宇宙軍が9月に公表した「宇宙脅威報告書」によると、今年7月時点で中国は約1,200基の衛星を軌道上に配置しており、そのうち光学・多分光・レーダー・無線周波数センサーを搭載した約510基が情報・監視・偵察任務を担っているとみられる。これにより、中国は宇宙から米軍空母や海外派遣部隊をリアルタイムで探知できる能力を有しているという。
また米宇宙軍は、中国も米軍の宇宙通信・レーダー・航法システムを妨害する無線周波数妨害装置を、訓練において常時活用していると分析している。B・チャンス・サルツマン宇宙軍司令官は、今年4月の米中経済安全保障審査委員会で「中国人民解放軍は、地域紛争への米国の軍事介入を抑止・妨害する手段として、宇宙作戦を遂行している可能性が高い」と指摘した。
一方、ロシアも世界有数の高性能な遠隔感知衛星を運用している。保有数は約200基と米中に比べ少ないものの、直接攻撃や迎撃が可能な衛星も含まれており、米国にとっては脅威だ。
米軍は、今回の新兵器があくまで「防御目的」であり「攻撃用」ではない点を強調している。1967年に発効した国際条約「宇宙条約」第4条が宇宙空間での軍事的攻撃行為を禁止しているためだ。米軍はCCSやメドランズについて「衛星通信を妨害するだけで、物理的に破壊するものではない」と説明している。
シキュア・ワールド財団の宇宙安全保障担当責任者ヴィクトリア・サムソン氏はブルームバーグの取材に対し「妨害装置は即時の軍事ニーズに対応するものであり、これを使用するからといって一線を越えるわけでも、宇宙で直接的な衝突を意味するわけでもない」と述べ「宇宙ベースの兵器よりもはるかに経済的だ」と指摘した。



















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