道のりは険しい中国の「航空強国」構想
エンジンなど中核部品は海外依存
安全認証も大きな課題

中国国有の中国商用飛機(COMAC)の主力旅客機C919が、今年の引き渡し計画を大幅に下回った。中国は米ボーイング、欧エアバスに肩を並べる「旅客機市場の3極」を掲げてきたが、量産と供給の壁があらわになっている。中核部品を米欧企業に頼る構造に加え、米中対立の影響で供給不安がくすぶること、中国製旅客機への安全面の懸念が根強いことが逆風となった。
航空機の引き渡し目標未達
航空コンサルティング会社のシリウムによると、COMACは今年に入ってから22日までにC919を13機引き渡した。前年と同水準で、増勢は限定的といえる。当初は年内に75機を引き渡す計画だったが、達成困難として目標を25機へ引き下げた。それでも現状のペースでは、修正後の計画にも届かない可能性が意識される。
主要顧客とされる中国の大手3社、エアチャイナ、中国南方航空、中国東方航空はC919を合計32機導入する計画を掲げていたものの、実際に受領した機体は12機にとどまった。計画と実績の乖離が大きく、引き渡し体制の整備が課題として残る。
COMACは今年3月、C919を含む航空機の生産を来年100機へ増やし、2027~2028年に年150機、2029年以降は年200機を製造する構想も示した。資金面では、先月に株主から440億人民元(約9,800億円)の資本注入を受け、体制強化を急ぐ姿勢を打ち出した。ただ、C919に小型機C909を加えても、今年の引き渡しは50機前後とみられ、前年(C919が13機、C909が32機)と大差がないとの指摘がある。中長期の量産計画を軌道に乗せるには、相応の時間が必要になりそうだ。
中核部品は外国製に依存
中国はエアバスとボーイングが二分してきた世界市場で「中国版ボーイング」を育てるとして、COMACへの投資を続けてきた。いわゆる「ABC(エアバス・ボーイング・COMAC)3強体制」を構想し、機体価格の安さや燃費効率を強みに訴求してきた経緯がある。世界の主要航空会社が新型機の確保を急ぐ局面は追い風と見られてきたが、世界市場での存在感は薄く、中国国内でもシェアは限られているという。
足元の不振要因として大きいのは、エンジン供給を巡る不透明感だ。C919のエンジンは、米GEエアロスペースと仏サフランの合弁企業CFMインターナショナルの製品で、米国の輸出規制の対象に含まれる。小型機C909にもGE系エンジンを使用しており、供給が滞れば生産計画に直結する。米国は7月に関連エンジンの輸出許可を再開したものの、再び制限がかかる可能性は残る。
機体の主要装備にも海外依存が目立つ。C919に使われる補助動力装置(APU)、車輪、ブレーキは米ハネウェル、飛行記録装置はGEエアロスペース、燃料・油圧システムは米パーカー、降着装置(ランディングギア)は独リープヘルに頼る。国産化が進まなければ、地政学リスクが供給リスクに直結し、量産の安定性を揺さぶりかねない。

安全認証も時間がかかる見通し
海外展開を難しくしているのが認証の問題である。C919は2023年に商業運航を開始したが、米国や欧州の規制当局から安全関連の認証を得ていない。認証取得は2028年以前には難しいとの見方が多く、当面は海外市場の拡大が限られる可能性がある。このためCOMACは、中国の内需市場と一部地域路線に重心を置く。
運航実績も課題を残す。1日当たりの平均運航時間はC909が3.4時間、C919が2.6時間とされ、一般的な旅客機の目安とされる1日7時間には及ばない。ただ、中国政府や国有航空会社の後押しと巨大な国内市場は強みでもある。航空市場のコンサルティング会社IBAは、短期間でボーイングやエアバスと同規模に並ぶのは難しいとしつつ、政治的支援と強い内需を背景に、世界の航空産業で存在感を徐々に高めるとの見方を示した。













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