最高指導層が崩れたイラン トランプ政権と水面下で向き合う実力者
後継候補モジタバ氏に陰る求心力
実利派ガリバフ議長が水面下で主導
強硬派ジャリリ氏の反発が不安要因
タンシリ司令官ら軍強硬派の抑制が焦点
米国のトランプ政権が水面下でイラン指導部と秘密交渉を進めていたことが明らかになり、最高指導層の序列1位と2位に当たる要人が相次いで殺害された後、混乱を深めるイランを実質的に動かしているのは誰かに世界の関心が集まっている。
イランでは、最高指導者だったアリ・ハメネイ師が先月28日、米国とイスラエルによる空爆が始まった当日に死亡した。その後、空白を埋めていたイランのアリ・ラリジャニ最高国家安全保障会議(SNSC)事務局長も17日に殺害された。さらに、ハメネイ師の息子で有力な次期最高指導者候補とみられていたモジタバ・ハメネイ師まで消息を絶った。モジタバ師を巡っては死亡説のほか、ロシアなどで空爆による負傷の治療を受けているとの見方も出ているが、いずれも確認されていない。
こうした権力の空白の中、米国のドナルド・トランプ大統領は23日、イランと「ほぼすべての争点で合意した」と述べ、終戦の可能性に言及した。権力中枢が揺らぐなか、対米交渉を実際に動かしている人物は誰なのかとの疑問が一気に強まった。

24日付のロイターやアクシオス、ポリティコの報道を総合すると、トランプ政権が派遣した米交渉団は、イランのモハンマド・バゲル・ガリバフ国会議長と接触したとされる。ポリティコは複数のホワイトハウス関係者の話として、トランプ政権がガリバフ議長を潜在的な交渉相手であり、将来の指導者候補としても検討していると伝えた。
ただ、イラン政府は同日、公式ルートを通じて対話そのものがなかったとして、交渉の事実を強く否定した。ガリバフ議長自身もSNSに、米国と交渉したことはないと投稿している。それでも、パキスタンやエジプトなど仲介役を担う近隣国に対し、ガリバフ議長がメッセージを送っていることが伝わると、外交筋の間では、同氏をトランプ大統領に向き合うイラン側の実質的な交渉相手とみる見方が強まった。
米側が接触したとされるガリバフ議長は、イスラム革命防衛隊(IRGC)出身で、首都テヘラン市長も務めた権力中枢の人物だ。現在は表舞台から姿を消したモジタバ師に近い存在とされる。モジタバ師については、最高指導者の死後に権力継承を急ぐ局面で、治療のためイランを離れたとの未確認情報まで広がっている。仮に同氏が権力の前面に立ったとしても、神権体制への不満を抱える国民が素直に受け入れるかは不透明だ。
ガリバフ議長が前面に出た背景を巡っては、専門家の間でも見方が分かれる。モジタバ師の代理として米国との交渉に臨んでいるのか、それとも国会議長として実利重視の判断から政治決断に踏み切ったのかは判然としない。ただ、軍と政界の双方を歩んだ同氏が対米交渉を主導している点から、崩壊の危機にあるイラン指導部で軍出身の実利派が発言力を強め、政局を主導しているとの分析が出ている。無謀な全面戦争よりも実利を選ぶ方が体制の延命に有利だという現実的判断が働いた、という見立てだ。
ガリバフ議長以外にも、イスラエルと米国の激しい攻撃を生き延び、なお政局を動かし得る大物は残っている。代表格がイランのアッバス・アラグチ外相だ。アラグチ外相は国際社会に向けたイランの公式見解を発信する役回りを担い、対外窓口を掌握する一方、表向きは強硬な対米抗戦を掲げながら、水面下では周辺国を通じた外交的な打開策を探る二重戦略を取っている。
国家指導者運営会議のサイード・ジャリリ委員は、強硬保守派の中核とされる。安全保障分野に最も通じた人物の一人で、かつては西側との核交渉も担った実力者だ。最高指導部が空白となるなか、国内の治安戦略と核政策の方向性に大きな影響力を持つ人物とみられている。宗教界の重鎮であるアリレザ・アラフィ専門家会議副議長は、神権体制の理念的基盤を支えながら、保守世論をつなぎ留める中枢的な役割を果たしている。
軍の最前線では、イランのアリレザ・タンシリ革命防衛隊海軍司令官の存在感が際立つ。タンシリ司令官は現在、世界のエネルギー市場の生命線ともいえるホルムズ海峡の封鎖作戦を統括している。海峡を巡る軍事的緊張が極限まで高まるなか、米国とイスラエルの軍当局は同氏の一挙手一投足を警戒している。
ロイターは、ハメネイ師の死後、イランが少数の個人に権力を依存するのではなく、多層的な制度を備えた権限分散型の統治構造へ移行したと分析した。米国が対話相手とみるガリバフ議長も、単独で全権を握る絶対的指導者というより、権力集団が内部調整の末に前面へ押し出した一時的な危機管理の代表者である可能性が高いとの見方が出ている。
そのため、米側が平和交渉は最終段階に入ったと自信を見せても、イラン内部で慢性的な派閥対立が再燃すれば、合意が崩れる危険はなお大きい。直前までイランを率いていたラリジャニ事務局長は、過去に穏健保守派の代表格とみられていたものの、苦労して米国との対話の糸口を開いても、強硬派の激しい反発に押し返され、最終的な合意には至らなかった。その末に、17日には米国とイスラエルの空爆で息子や側近、警護要員とともに死亡した。
ジャリリ委員とタンシリ司令官を軸とする軍・安全保障ラインの強硬派は、今も血の復讐と徹底抗戦を唱え、実力を誇示している。彼らは米国との妥協を、イスラム革命の精神に対する重大な裏切りと位置づける。強い指導者がこうした不満を抑え切れなければ、いつでも激しい反発が噴き出す可能性がある。
アクシオスは専門家の話として、米国の要求受け入れを巡る意見の違いがイラン内部で表面化すれば、交渉ルートそのものが崩れる恐れがあると伝えた。内部の支持基盤が弱い交渉代表が強硬派の抵抗に直面した場合、かえって一段と過激な対外軍事挑発へ傾く可能性もあるとしている。













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