
15日(現地時間)、ドナルド・トランプ米大統領がウクライナへの軍事支援と対ロシア制裁を一段と強めると宣言し、クレムリン内部ではウラジーミル・プーチン大統領の「強硬一辺倒」路線に対する疑念が膨らんでいると米紙「ワシントン・ポスト」が報じた。トランプ大統領は「50日以内に戦争が終わらなければモスクワと取引する国に100%の関税を科す」と脅したが、ロシア側は表向き無視しつつも、国家エリートの一部が「千載一遇の停戦機会を逃した」と後悔しているという。
ロシアが占領地を既成事実化する条件付き停戦すら拒否したことで、経済界には危機感が広がる。カーネギー・ロシアユーラシアセンターのタチアナ・スタノバヤ上級研究員は「プーチンが戦争を止められたのに止めなかったという怒りがじわじわ増えている」と指摘し、「頑固なこだわりで歴史的チャンスを棒に振った」という見方が根強いと語る。
ロシア金融界では制裁と戦時支出のダブルパンチでインフレが深刻化。中央銀行は政策金利を20%超に引き上げて物価抑制を図るが、企業は信用収縮と景気後退に苦しみ、投資は蒸発しつつある。6月のサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでは「国内投資減速と代金未払い増加で景気が凍結状態」との嘆きが相次ぎ、鉄鋼最大手セヴェルスタールは減産と工場閉鎖を示唆した。
「戦争継続」vs「経済崩壊」…エリートの深まる断層
匿名の政府高官は「信用危機も景気後退も誰もが承知だが、政権は勝利ムードのまま突き進んでいる」と吐露し、「実業家は慎重な交渉を求めるが、軍と外務省は徹底抗戦を主張する」と内部対立を明かした。ただし意思決定中枢は閉鎖的で、プーチンと側近がこうした不満を実感する可能性は低いという。
原油輸出による外貨が当面潤沢なため、経済学者の多くは「今後18〜20か月は戦費を賄える」と分析する。トランプ大統領が宣告した「100%セカンダリー関税」についても「中国とインドに全面関税など非現実的」との見方が主流だ。クレムリン事情通の政治評論家セルゲイ・マルコフは「国内で本気にする者はいない」と断言する。
MAGAの逆風、ホワイトハウスも板挟み
一方、トランプ大統領はウクライナ支援を決めたことで「MAGA(Make America Great Again)」中心の支持層と衝突。共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は「MAGAは海外戦争介入にNOだ」と批判し、元首席戦略官スティーブ・バノンも「ヨーロッパの血なまぐさい戦争に引きずり込まれている」とパッドキャストで糾弾した。
偽名のトランプ陣営関係者は米政治専門サイト「ポリティコ」に「欧州が武器を買うので怒りは抑えられたが、依然として不満だ」と漏らす。ホワイトハウスは「支持層の離反」を否定するが、大統領選を前にウクライナ問題は爆弾そのものだ。
対ロ制裁を強める米国と長期戦に傾くロシア――二極対立が深まる中、国際エネルギー市場の混乱と世界経済への波及は避けられそうにない。停戦の窓が閉じるほど、プーチンの強硬路線もトランプの選挙戦略も、どちらも危険な綱渡りになりつつある。
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