
世界中の超高額資産家が最も恐れているのは、金融危機や負債問題ではなかった。UBSが世界の超高額資産家顧客を対象に実施した『ビリオネア・アンビションズ・レポート(Billionaire Ambitions Report)』によると、回答者の66%が今後12カ月以内に市場環境を悪化させる可能性が最も高い要因として『関税』を挙げた。これに『大規模な地政学的紛争』(63%)、『政策の不確実性』(59%)が続いた。
ウォール街が米国の天文学的な国家負債、他国の財政健全性、AIハイパースケーラーの社債発行拡大などを懸念しているのに対し、億万長者の中で『負債危機』を最大のリスクとして指摘した割合は34%に留まった。世界的な景気後退(27%)、金融市場危機(16%)、気候変動(14%)を最優先リスクと見なす割合も相対的に低かった。
地域別に見ると、懸念事項の内容はわずかに異なった。アジア太平洋地域の億万長者の75%が関税を最大の危険と指摘したのに対し、米州地域では『高インフレ』や『大規模な地政学的紛争』を懸念する回答が70%と最も多かった。
これは、トランプ米大統領の関税政策が中国や東南アジア諸国には高率関税という直接的な打撃を与える一方で、日本や韓国には相対的に低いものの、依然として歴史的に高い水準の関税負担を強いている現状を反映しているとみられる。
一方、米国の輸入業者が関税負担の一部を消費者価格に転嫁し、米国国内の消費者は高物価と『生活費の圧迫』に対する不安が高まっている状況である。トランプ政権とホワイトハウスは各種コストがむしろ低下したと強調しているが、『解放の日(Liberation Day)』関税発表以降、消費者物価指数(CPI)の上昇率は年率ベースで着実に加速している状況である。
皮肉なことに、トランプ氏の関税政策が米国以外の世界経済にはインフレ抑制要因として作用する一方で、米国国内では物価圧力をより持続させる効果をもたらしている可能性があるとの分析も示されている。
億万長者は大多数の人々と異なり、国境にあまり縛られていない点も特徴である。UBSの調査によると、回答者の36%はすでに一度以上居住地を移転した経験があり、さらに9%は移転を検討中であると答えた。その理由としては『より良い生活の質の追求』(36%)、『地政学的リスク』(36%)、『より効率的な節税・税務管理』(35%)などが複合的に挙げられている。
つまり、資産は多いが心配がない億万長者はほとんどおらず、彼らの関心は現在、関税と通商の対立に最も敏感に向けられているということを示している。














コメント0