
金正恩の地下要塞がもはや絶対的な安全圏とは言えなくなりつつある。軍事専門家の間で北朝鮮の地下坑道防護戦略が転換点を迎えたと指摘される背景には、朝鮮半島特有の花崗岩地形と、現代の貫通打撃兵器が持つ破壊速度との決定的な差がある。
北朝鮮は長年にわたり、地下深部に潜ることこそが生存を保証する手段だと信じてきた。しかし花崗岩層では、衝撃が地表で止まらず瞬時に内部へ伝播するため、防護層を厚くするほど内部共振が増幅し、結果として崩壊に至るまでの時間が短縮されるという逆説的な弱点が生じる。さらに北朝鮮式坑道は細長く連続する構造が多く、衝撃が天井部に到達した瞬間、空間全体が同時に揺さぶられ、亀裂が一気に拡散する構造的脆弱性を抱えている。
この現実を象徴する事例が、米国がイランの核施設攻撃に投入したGBU-57である。この兵器は爆薬の威力よりも、極端に増した金属質量による落下エネルギーを主たる破壊要素とする。数キロメートル上空から落下することで位置エネルギーが運動エネルギーへ転換され、その衝撃破壊力は従来型爆弾との比較自体が成立しない水準に達する。
岩盤は表面から破壊されるのではなく、内部から割裂し、貫通後に爆発する構造によって衝撃は一方向へ押し込まれる。これにより坑道の天井部が引き裂かれ、北朝鮮が長く信奉してきた「深い位置にあるほど安全」という前提は、もはや成立しない状況となっている。
北朝鮮内部の配置構造を考慮すれば、危険性はさらに拡大する。主要指揮施設、ミサイル貯蔵庫、通信回線といった戦略資産のほぼすべてが地下坑道に集中しており、一つの区画が破壊されれば連鎖的崩壊が発生し、複数の機能が同時に麻痺する可能性が高い。
入口の封鎖だけで運用が停止するという構造的欠陥は、金正恩が想定してきた「最後の生存空間」が、実際には最初に無力化され得る地点であることを示している。さらに繰り返される打撃によって運動エネルギーが蓄積されれば、坑道の深さに関係なく内部装備は粉砕され、戦術核を使用せずとも地下施設そのものを無力化できることを意味する。
最終的な問題は時間にある。バンカー防護技術の進化速度を、バンカー破壊技術の進化が大きく上回っている。金正恩が依存してきたコンクリート要塞戦略は、防護の概念ではなく時間稼ぎの概念へと変質しつつあり、外部から見えないという理由だけで成立していた安全神話は、現代兵器の前で急速に意味を失っている。
もはや深く掘り進むだけでは生存は担保できない。北朝鮮の核心指揮体系が一度でも強い衝撃を受けた瞬間、数十年かけて築かれてきた地下隠蔽戦略は、一気に崩壊する可能性がある。金正恩の盾と見なされてきた地下要塞は、想定よりも早く限界に近づいている。














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