インドの研究チームが月の245個の岩石痕跡を観測した。数十年間、科学者らは月を動かない不変の風景と考えてきた。しかし、月面が従来の想像と異なり活動的であるとの研究結果が明らかになったと、科学専門メディア「Interesting Engineering」が報じている。今回の研究結果は、天文学分野の国際学術誌「Icarus(イカロス)」に発表された。
研究チームは月面で発生した新たな「岩塊の落下(boulder fall)」を地図に示し、その年代を測定した。その結果、月に存在する岩石は最大で数百メートルに達することが判明した。また、これらの岩石が時折、断崖やクレーターの壁に沿って転がり落ち、月面の埃を散らして明るい痕跡を残すことも確認された。

今回の研究を率いたインド・アーメダバードの物理学研究所(PRL)のスレーシュ・ヴィジャヤン准教授(Suresh Vijayan)は、「長年、月は地質学的に死んでいると信じられてきた。我々の研究によれば、数十メートルから数百メートルの大きさで、トン単位の岩石が時間の経過とともに元の位置から移動していることが明らかになった」と述べた。
今回の発見は、月の地質学に対する理解を一新するだけでなく、月面が依然として地質活動が活発な地域であることを示しており、将来の探査ミッションにおける重要な指針となる可能性がある。全長373kmにわたり245か所の新たな岩石痕跡が発見された。
月における最近の岩石落下の特定は長らく困難な課題であった。従来の研究では、岩石が転がった痕跡を地図に示していたが、「宇宙風化」により古い痕跡は次第に薄れ、どれが新たなものか明確に区別できなかった。

今回の発見は、「岩塊落下に伴う放出物(BFE)」の探索過程で得られた。BFEは、岩石が移動する際に地形が砕け、周囲に蓄積された新たな月の物質で、周辺よりも明るく現れ、岩石の軌跡に沿って縞模様を形成する。これにより、新たな岩石移動の痕跡と既存の動きを区別できるようになった。
研究チームは、北緯40度~南緯40度までの月面写真数千枚を分析し、この地域において太陽光が比較的強く、岩石の痕跡が識別しやすいことを確認した。その後、米航空宇宙局(NASA)のルナー・リコネサンス・オービター(LRO)が2009年~2022年に撮影した高解像度の写真を分析し、実際の岩石移動とその軌跡に沿うBFEの存在を確認した。
研究チームは、全長373kmにわたって245か所の新たな岩石の足跡を発見した。そのうち約46%が月の海地域に、54%が高地に位置している。さらに、全体の62%において複数の岩石の足跡が確認され、該当地域では岩石落下が繰り返されていることが示唆される。
今回発見された岩石痕跡の年代推定には、BFEと既知の年代を持つ近隣クレーターとの比較が用いられた。多くのクレーターが約40万年前に形成されたことから、斜面に残る岩石痕跡はこれよりもはるかに最近に形成されたことが示される。アポロ17号の着陸地点や地震活動、地殻変動に関連する地域付近でも一部の痕跡が確認され、月震や衝突が岩石落下を引き起こした可能性が示唆された。
月面の理解は、将来の月基地建設などにおいて極めて重要である。本研究は、月が地質学的に死んでいるのではなく、依然として活動し、地震、衝突、熱応力など様々な要因で表面が変化していることを示している。
今回地図化された最新の岩石活動ホットスポットは、将来の月面および地下現象の研究を目的とする探査ミッションの主要着陸地点になり得る。岩石移動の理解は、月面の安定性評価、さらには将来の居住、探査、月資源採掘計画においても重要な要素である。
しかしながら、本研究には限界がある。小さな岩石の動きを検知するのは依然として困難であり、照明条件が放出物パターンの視認性に影響を与える可能性があるため、各岩石落下の正確な原因を特定するには現地での測定が必要である。
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