
米国とイランの戦闘が2か月目に入る中、不安定なホルムズ海峡の船舶航行をめぐり、アジア各国で緊張が広がっている。アジア物流の要衝であるマラッカ海峡もまた、地政学的な「人質」となりかねないとの懸念が強まっている。
ロイター通信などによると、インドネシアのプルバヤ・ユディ・サデワ財務相は4月22日、マラッカ海峡を通過する商船に通行税を課す案を公に提案したが、周辺国などの反発を受けて発言を撤回した。プルバヤ財務相は同日、ジャカルタで開かれたシンポジウムで、「我々は戦略的な世界のエネルギー輸送路に位置しているにもかかわらず、通行料を徴収していない」と述べた。さらに、イランがホルムズ海峡で通行料を徴収していることに言及したうえで、「マラッカ海峡にも同じ論理を適用できる」と述べた。
これに対し、海峡を共有するマレーシアとシンガポールが強く反発した。インドネシアのスギオノ外相は23日、「インドネシアは貿易国家として航行の自由を支持する」とし、海峡通行税の徴収は国際法にも反すると表明した。論争が広がる中、プルバヤ財務相は24日、「本気で発言したわけではない」と釈明した。
マラッカ海峡への通行料徴収案は、表向きは沈静化したものの、アジア各国の間で危機感が高まっている。インドネシア現地メディアは、プルバヤ財務相の発言について、自国が国際社会の「周辺国」にとどまらず、中核的な役割を果たす国家になるべきだとするプラボウォ・スビアント大統領の持論と通じるものだと指摘した。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は、インドネシアのイルバンシャー海洋安全局長が、マラッカ海峡を「巨大な海上有料道路」と表現したと伝えた。
マラッカ海峡は、インドネシアのスマトラ島とマレー半島の間を約800キロにわたって延び、最も狭い地点では幅約2.7キロにとどまる。インド洋と南シナ海、太平洋を結ぶ要衝に位置し、東アジアと中東・ヨーロッパを最短距離でつなぐ航路となっている。世界の海上貨物輸送量の24%、石油取引の45%がマラッカ海峡を通過するとされる。マレーシア海洋部によると、2025年に同海峡を通航した船舶は10万2,500隻に上った。水深などの地形条件に加え、世界的物流拠点のシンガポールで積み替えサービスを受けられる点を踏まえると、マラッカ海峡に代わる航路は事実上存在しないとみられている。
マラッカ海峡を経由する海上輸送に支障が生じれば、世界貿易は麻痺しかねないとされる。とりわけ中国のエネルギー安全保障にとっては大きな打撃となりうる。2003年、胡錦濤(こ・きんとう)国家主席(当時)は、マラッカ海峡に対する軍事的な脆弱性を「マラッカ・ジレンマ」と表現した。この発言は、その後の中国海軍の増強政策や、一帯一路構想に基づく陸上エネルギー輸送ルートの開拓などにつながったという。現在も、中国が輸入する原油の70〜80%はマラッカ海峡を経由しているとみられる。
もっとも、現時点でマラッカ海峡が直ちに安全保障上の不安定要因に巻き込まれる可能性は高くないとみられる。中国と東南アジア諸国の間で南シナ海の領有権争いが激化する中でも、国際海峡であるマラッカ海峡における航行の自由の原則は、最後の一線として維持されてきた。インドネシア、マレーシア、シンガポールは1971年、マラッカ海峡の管理を調整するための3か国協力体制を構築し、この海峡が自由な通航を認める国際海峡であることを改めて確認している。
しかし、ホルムズ海峡の航行問題の帰趨によっては、マラッカ海峡が地域紛争の火種となる可能性も指摘されている。米国は近頃、イランに対する経済的な圧力を最大限に強める政策を進め、中国の製油会社に制裁を科したほか、インド洋ではイラン商船を拿捕した。かつて中国が「マラッカ・ジレンマ」の克服を目指して進めた取り組みは、米中対立が深まる一因にもなったとされる。中国は海軍力を増強する一方、一帯一路(陸・海のシルクロード)構想を通じ、インド太平洋地域で米軍基地に近接する主要地点に港湾ネットワークを構築しており、米国の警戒感を強めている。
さらに、南シナ海で米中の軍事的な競争が激化していることも、懸念を強める要因となっている。米国とインドネシアは4月14日、両国の防衛協力関係を「主要防衛協力パートナーシップ」に格上げした。これにより、インドネシアが米国主導の安全保障秩序にさらに深く組み込まれたとの見方も出ている。南シナ海の領有権争いという地域紛争に、米中の長期的な覇権競争、さらに米国とイランの戦闘が重なり合う兆しもうかがえる。オーストラリアの学術メディア、ザ・カンバセーションは、「台湾有事やホルムズ海峡紛争の余波、同盟関係の変化など、いかなるきっかけであれ米中の軍事競争が激化すれば、マラッカ海峡はその中心に立つことになる」と指摘した。
シンガポールの南洋理工大学(NTU)S・ラジャラトナム国際学大学院(RSIS)のチョン・ジャイアン教授は、SCMPの取材に対し、「現在、マラッカ海峡が国際海峡であるとの合意は維持されているが、それを当然視するのではなく、積極的に守っていく必要がある」と述べた。














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