インドネシア州知事、貧困男性に精管結紮手術を提案
宗教界「イスラムは永久不妊手術を禁止」と非難
学界「とんでもない発想…露骨な『身体の政治化』」

青少年犯罪の急増を受けて、青少年犯罪者に中国式の軍事訓練を課すべきだと主張し物議を醸したインドネシアの州知事が、今度は貧困男性への政府福祉支援の条件として精管結紮手術(パイプカット)を提案し、再び論争の的となっている。
10日(現地時間)、香港紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)」によると、西ジャワ州のデディ・ムルヤディ知事は最近の演説で、「政府の社会福祉支援を希望する貧困男性に対し、精管結紮手術の実施を義務付けるべきだ」との構想を明らかにした。
ムルヤディ知事は「なぜ貧しい家庭は子どもを多く産み、裕福な家庭は20億ルピア(約1,760万円)も払って体外受精しても子どもを持つのが難しいのか分からない」と語った。
さらに、11人の子どもを持つある夫婦に言及し、「その子どもたちの一部はパンを売るために路上に出ざるを得なかった」と主張した。
知事は「きちんと育てられないなら、子どもは産むべきではない」と発言し、社会的弱者の女性に対する出産補助金も、「簡易住宅の建設事業」に転用すべきだと提案した。
SCMPは、今後、食料や奨学金、公営住宅など他の政府支援にも精管結紮手術が条件として含まれる可能性があると報じた。また、手術に同意した男性には50万ルピア(約4,400円)が支給されるという。
しかし、この発言に対し宗教界と専門家の両方から強い批判が巻き起こっている。
インドネシア最大のイスラム組織「ナフダトゥル・ウラマー」の高位聖職者チョリル・ナフィス氏はSNSで、「イスラム教は永久不妊手術を禁じており、出産を制限するのではなく雇用機会の創出によって貧困を減らすべきだ」と指摘した。
シンガポール南洋理工大学のズルキフリ・アミール准教授も「これは全く馬鹿げた発想であり、極めて露骨な『身体の政治化』だ」と強く批判した。
なお、インドネシアで政治家が貧困に関する過激な発言で物議を醸したのはこれが初めてではない。
2020年には、当時のムハジル・エフェンディ人材開発・文化調整大臣が「貧困家庭同士が結婚すれば貧困率が高まる」との趣旨の発言をして非難を浴びた。
ムルヤディ知事は、今月2日にも、ジャカルタ近郊の衛星都市で青少年犯罪が急増していることを受け、「中国式の軍事更生プログラム」を導入する構想を提示し論争を引き起こしていた。
知事は当時、「中国の制度を見たところ、青少年はより元気で前向きになり、人生の方向性も見いだせるようになった。これこそが我々の未来になり得る」と強調していた。
一方で、政治界の一部からは「青少年犯罪に対する法的処罰規定が存在する中、更生プログラムの導入は妥当ではない」との反対意見も出されている。