
テスラが開発を進めていた2万5000ドル(約350万円)の低価格EV「モデル2」プロジェクトが実質的に中止されていたにもかかわらず、イーロン・マスクCEOがこれを公然と否定したことで、社内幹部の一部が「投資家への欺瞞」に懸念を示していたとロイター通信が報じた。
同通信が関係者複数の証言として伝えたところによると、マスク氏は昨年の時点でプロジェクト中止を指示していたが、外部への説明では一貫してそれを否定。特に昨年4月、ロイターが「モデル2の計画が打ち切られた」とする独自報道を出した直後、テスラ株が6%近く急落すると、マスク氏はSNS「X(旧Twitter)」に「ロイターは嘘をついている」と投稿し、報道を全面否定した。
その後、株価は一部反発したものの、終値は前日比で3.6%下落。だが、当時すでにテスラ社内では「自動運転ロボタクシー」への戦略転換が決定しており、「モデル2」の開発計画は正式に撤回されていたという。関係者によれば、幹部の中にはマスク氏のX投稿を見て混乱し、「方針が変わったのか」と直接確認した者もいたが、マスク氏は「プロジェクトは依然中止されたままだ」と答えたとされる。
この対応に対し、一部の経営陣は「いずれ事実は明るみに出るのに、あえて否定するのは理解できない」と不信感を募らせた。とりわけ、市場の信頼性や消費者の購入判断に影響を与える可能性があると危惧する声もあった。2万5000ドルの低価格テスラを期待して購入を先送りする消費者が増えれば、販売計画にも支障をきたしかねないためだ。
もともとマスク氏は「モデル2」を新プラットフォーム上でゼロから設計する「まったく新しいEV」だと強調しており、同プロジェクトを「EV価格を引き下げる画期的な挑戦」と位置付けていた。
しかし今回のような不透明な対応は、米証券取引委員会(SEC)による制裁リスクも孕んでいる。マスク氏は2018年にも「テスラを非上場化する」とSNSに投稿し、投資家を誤解させたとして、SECとの間で4000万ドル(当時約5700万ドル相当)の和解金を支払った経緯がある。その際、以降はテスラに関する重要投稿を行う前に弁護士の事前審査を受けることで合意していたが、今回もそのプロセスを経ていなかったと見られている。