
中国が世界の供給網で圧倒的な存在感を誇る希土類の影響力は、米国との貿易交渉で改めて浮き彫りになった。だが、中国が支配的な立場にあるのは希土類だけではない。原材料や部品の分野でも、中国が「首根っこ」を握っている品目は多い。
米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は5日、中国がリチウムイオン電池、成熟プロセス半導体、そして一部の医薬品原料においても絶対的なシェアを占めていると報じた。
このような優位性の背景には、数十年にわたる政策的な積み重ねがある。
習近平国家主席は2020年に発表した文章の中で「供給網を武器化してはならない」としつつも、「他国の干渉を防ぐため、国際産業網の中国依存度を高める必要がある」と述べていたという。
電気自動車とバッテリーの集中育成
リチウムイオン電池は、電気自動車やエネルギー貯蔵装置、家電製品など幅広い分野で使用されている。この分野を制することは、自動車技術や環境エネルギー分野での主導権を握ることを意味する。
世界最大の電池メーカー2社は中国のCATLとBYDだ。電池が他国で生産されても、内部には相当量の中国製部品が使われている。
調査会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスによると、中国のサプライヤーは電池内部の陽極材の79%、陰極材の92%を生産している。
また、中国企業はリチウム精製で世界シェア63%を占め、精製コバルトは80%、精製グラファイトは98%を握っている。
電気自動車とバッテリー産業の急成長の背景には、2015年に打ち出された産業育成政策がある。この政策以降、数百の電気自動車メーカーやバッテリー企業が次々と誕生した。
2015年から2019年にかけては、電気自動車メーカーに国産電池の使用を奨励する政策が取られた。
さらに今年に入り、自国技術の流出を防ぎ独占的地位を維持するための規制も導入された。
7月にはリチウムイオン電池製造に関する特定技術の海外移転に政府の許可を義務づけ、10月からは一部製造設備や陽極材の輸出にも許可制を導入した。
オランダ・ネクスペリア騒動に見る半導体支配力
中国は現在、世界の成熟プロセス半導体(汎用半導体)生産能力の約3分の1を担っている。これらのチップは最先端品より生産が容易で、自動車や家電、防衛など多くの産業で不可欠な部品だ。
最近のオランダ企業ネクスペリアを巡る騒動は、中国がサプライチェーンの一部を掌握するだけで全体の流れを左右できることを示した。
ネクスペリアはオランダのナイメーヘンに本社を置く半導体メーカーだが、2019年に中国のウィンテックが買収し、実質的な経営権を握っていた。
オランダ政府は先月12日、国家安全保障上の理由で行政命令を発動し、ネクスペリアの経営判断に介入できる権限を確保した。これに反発した中国は、ネクスペリア製半導体の約8割を生産する広東省東莞工場からの輸出を停止した。
ネクスペリアは主要部品をオランダで製造し、最終組立を東莞で行って現代自動車、トヨタ、BMWなどに車載半導体を供給している。
中国側は、オランダ政府が米国の貿易ブラックリストに載るネクスペリア親会社から経営権を剥奪したことへの報復として輸出を止めた格好である。
その後、先月30日に行われたトランプ米大統領と習近平国家主席の首脳会談を受け、中国はネクスペリアのチップを再びグローバル顧客に供給することを認めた。
ただ、この一件は、たとえ中規模の半導体メーカー1社でも供給が途絶すれば、世界の産業に深刻な影響を与え得ることを示した。
米国が依存する医薬品原料の現実
米国内で販売されている一般医薬品の多くには「中国製」と明記されていないが、その原料となる化学物質の多くを中国が供給している。
アセトアミノフェンやイブプロフェンといった有効成分のほとんどは中国から輸入されており、これらはそれぞれタイレノールやアドビルの主要成分にあたる。中国はまた、抗生物質成分の主要な供給国でもある。
米国はブランド薬の多くを欧州から輸入しているが、ジェネリック医薬品の生産はインドに大きく依存している。
しかし、インド産ジェネリックに使用される有効成分の多くも中国製である。
WSJによると、中国は医薬品原料を政治的手段として使うことの危険性を十分に認識しているが、実際に貿易交渉で脅しの材料として使うことはあまりなかったという。
ただ、新型コロナの感染拡大初期にマスクフィルター供給が滞り、世界中が防護具不足に陥った際には、中国が供給網の影響力を誇示する形となった。
2020年3月、新華社は「中国が医療品の輸出を制限すれば、米国はコロナウイルスという大海に飲み込まれるだろう」と伝えていた。















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