6000年の遺物10万点を公開…「もはや保管能力不足という言い訳は通用しない」
「世界最大の単一文明博物館」開館で、文化財返還要求が再燃

20年間の工事を経て、エジプト6000年の歴史を誇る約10万点の遺物を所蔵する「大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum)」が先月1日に公式開館した。ピラミッドやスフィンクスで有名なギザ地域に位置するこの博物館は、単一文明に捧げられた世界最大規模の考古学展示施設として評価されている。
アブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領は開館式で、「今回の開館はエジプトが世界に届ける贈り物であり、エジプト文明の遺産が人類共通の資産であることを示す象徴的な開館だ」と述べた。館内では、数千年前の遺物が完璧に復元・保存された状態で展示されている。
『ニューヨーク・タイムズ』(NYT)は先月6日(現地時間)、エジプト政府が大エジプト博物館を通じて国の地位を高め、観光収入を増やして経済回復の原動力にしようとしていると伝える一方、「しかし多くのエジプト人にとって、この場所は『今こそ我々の遺物を取り戻すべきだ』という声を上げる舞台でもある」と指摘した。
カイロのエジプト学者であるモニカ・ハンナ氏は、「過去の『返還不可』という理屈はすでに崩れた」と述べ、「エジプトは遺産を保存する能力と意志、そして世界水準の施設をすべて備えている」と強調した。
一方、開館式に出席したオランダのディック・スホーフ首相は、自国が保有していた古代エジプトの遺物のうち、盗難品とみられる石像をエジプトに返還すると明らかにした。
この石像は、約3500年前のトトメス3世時代の高官の顔をかたどったもので、2011~2012年の「アラブの春」の際にエジプトで盗まれたとされている。
オランダ政府の今回の対応は、大エジプト博物館の開館を契機に再燃した文化財返還の議論に対する象徴的なメッセージと受け止められている。
「少年王」ツタンカーメン、100年ぶりに完全な姿で公開…平民の暮らしも

観覧客の足を最も長く止めるのは、間違いなくツタンカーメン展示館だ。
ヒエログリフの照明が瞬く廊下を抜けると、1922年に発掘されたツタンカーメン王の墓から出土した、葬祭用の寝台や戦車、黄金の王座、黄金のマスクなど、5000点以上の遺物が一堂に展示されている。

エジプトの象徴である黄金のマスクも、今回初めて完全な形で公開された。展示は「少年王の生・死・復活」をひとつの叙事詩として構成し、観覧者が古代エジプトの葬祭文化と神話を同時に体験できるよう設計されている。
もうひとつの見どころは、古代エジプト人の日常生活を伝える遺物だ。
ビール醸造師やパン職人の像、短いボブや巻き毛のかつらを身につけた女性の胸像、犬を撫でる男性の小さな土器像など、王の時代に生きた平民たちの暮らしが生き生きと伝わってくる。

ハンナ氏は「最も重要な遺物は王の宝ではなく、日常を生きた人々の痕跡だ」と述べた。
博物館では最新のデジタル技術を用いて、古代の生活を再現している。
ある墓を復元した展示館では、壁画の人物が映像で動き、狩人が弓を引けばガゼルが画面の外へ逃げ、農夫たちは重いかごを肩に担いで揺れながら歩く様子まで表現されている。
エジプト観光庁は、年間500万人の来館者誘致と1万2000室の新規ホテル客室整備を目標としている。
エジプト学の中心、再びカイロへ…「ヨーロッパの博物館にある遺物は、今こそ返還されるべき」

開館初日、博物館には世界中から観光客が訪れたほか、エジプト国内各地から市民も集まった。
伝統衣装を身にまとった高齢者たちがガラスケースの前で写真を撮る一方、若い女性たちはSNSで「エジプトの誇り」として現場の様子を生中継した。
26歳のインフルエンサー、マイ・モハメド氏は「ツタンカーメンだけでなく、人々の反応も見たかった」と語り、「エジプトがこれを成し遂げたことが誇らしい」と述べた。
博物館側は「ここは単なる観光地ではなく、エジプト学の中心を西洋から本場カイロに戻すプロジェクトだ」と強調している。
現在、300人以上の復元専門家が常駐しており、これまでヨーロッパの大学を中心に発展してきた研究の重心を再びカイロに移す計画である。
大エジプト博物館の開館は、文化財返還論争にも直ちにつながった。エジプトの歴史家や市民団体は長年にわたり、ヨーロッパの主要博物館に保管されてきた象徴的な遺物の返還運動を主導してきた。

代表例としては、ドイツ・ベルリンの新博物館のネフェルティティの胸像、大英博物館のロゼッタ・ストーン、フランス・ルーヴル美術館のデンデラの黄道帯が挙げられる。
かつてヨーロッパ諸国は「エジプト博物館には保管能力が不足している」として返還を拒んでいたが、2014年の旧エジプト博物館でのツタンカーメンのマスクのあごひげ破損事件を除けば、もはやその主張には説得力がないとされている。
さらに、ヨーロッパでも博物館内での盗難や損傷事件が相次いでいる。2020年にはベルリンでエジプトの遺物70点が油で損傷し、最近ではルーヴル美術館でフランス王冠の宝石が盗まれる事件も発生した。
「文化財返還は『正義』の問題」
ニューヨーク・タイムズ(NYT)は「多くのエジプト人は文化財返還を倫理と歴史的正義の問題と見なしている」と伝えた。
マイ・モハメド氏は「自分たちの遺産を見るために他国へ行かなければならないのはおかしい」と述べ、「それは私たちのアイデンティティそのものだ」と語った。
ただし、エジプト政府は公式には慎重な姿勢を維持している。
エジプト考古最高評議会の事務総長モハメド・イスマイル・カリード氏は、法的手続きの複雑さを認めつつも、ヨーロッパ諸国と協力してネフェルティティの胸像など象徴的な遺物を「臨時展示」でも招致したいと述べた。
カリード氏は「せめて一時でもここを訪れてほしい。エジプト人が自分たちの祖先の顔を直接見ることができるように」と語った。
















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