米ペンシルベニア州ベツレヘムの狭い路地では、無料の食料を受け取ろうとする人々の列が道路にまで伸びていた。週5回運営されるこの施設には、1日に20~30世帯が訪れている。2019年には1日3~5世帯、約50人に食事を提供していたが、現在は最大200人に無料配食を行っている。加えて、54戸の仮設住宅もすでに満室となっている。
英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』は25日(現地時間)、「高騰する食料品価格や家賃、医療費が全米を覆っている。低所得層は生活必需品の消費を削らざるを得ない状況に追い込まれている」と報じ、ペンシルベニア州ベツレヘムおよび周辺リーハイ・バレー地域の住民が直面する厳しい生活実態を伝えた。さらに「この地域では、生計を維持できるだけの収入を得ることさえ困難になっている。こうした不安は、分断が深まる米国社会とその経済の実態を映し出している」と指摘した。

「生活の基盤が崩れている…生計を立てるのも難しい」
ベツレヘムで花屋を営むアニサ・カマチョさん(26)は、家賃の高騰により最近、祖父母との同居を始めた。「正直、すべてが私たちを追い詰めているように感じる。私と恋人はダブルワークをしているが、それでもまるで残りかすをかき集めているような気分だ」とため息をついた。
倉庫で働くドミトリー・ナッシュさん(32)は「週72時間以上働いて、ようやく生計を維持している。選択ではなく、生活費の増加でそうせざるを得ない。食費を節約するため、食事回数も減らした。食べ物のことでこんな状況に追い込まれるなんておかしい。生きるには食べなければならないのに」と訴えた。
ベツレヘムで無料食堂「ニュー・ベサニー(New Bethany)」を運営するマーク・リトルさん(52)は「人々は疲れ切り、極度のストレスにさらされている。今ほど支援が必要な時代はなかった。生活の基盤が崩れている。昨年にはこんな状況になるとは想像もしなかった」と語り、「家賃を払えなかったり、交通事故で医療費を返済できずに退去を迫られた人を多く見ている。こうした『経済的ホームレス状態』は今後さらに増えるだろう」と懸念を示した。
リーハイ・バレー地域では富裕層と一般層との格差が拡大し、不満が高まっている。富裕層が不動産や株式市場の好調を享受する一方、低所得層は物価上昇の直撃を受けている。地域行政責任者のラモント・マクルーア氏は「この状況は、産業化以降の米国社会の姿を映し出している。この地域の経済規模はすでに一部の州を上回るが、ここで暮らす余裕すらない人々も多い」と述べた。
生活費危機が深刻化する中、トランプ政権は支援削減
全米では過去5年間にわたり物価の急騰が続いている。インフレ率は2022年の9%から3%水準まで鈍化したものの、累積する負担が低所得層を極度に圧迫していると『FT』は指摘している。
とりわけ住宅問題は深刻だ。アトランタ連邦準備銀行によると、2021年以降、住宅価格の中央値は3分の1以上上昇し、40万ドル(約6,200万円)に迫っている。住宅費が所得の30%以内であれば「負担可能」とされるが、その場合でも世帯年収12万ドル(約1,900万円)以上が必要となる一方、全米の中央値は8万5,000ドル(約1,300万円)にとどまる。
雇用環境も依然として厳しい。9月の失業率は4.4%と4年ぶりの高水準で、低賃金労働者の賃金上昇率も2022年以降で半減し、3.6%程度に低下している。
こうした中、ドナルド・トランプ政権は低所得層向けの食料・医療支援の縮小を進めている。トランプ大統領が主導した大規模予算案の発効により、来年から「補助的栄養支援プログラム(SNAP)」および低所得者向けの医療保険制度(メディケイド)の受給者は大幅に減少すると見込まれる。現在、SNAP利用者は全米で4,200万人に達している。また医療保険制度改革法(ACA、通称オバマケア)の税額控除が今年末に失効すれば、保険料は年間平均1,000ドル(約16万円)以上上昇する可能性がある。
ベツレヘム在住で2人の娘を育てるアイダリス・マルティネスさん(26)は、持病で職を失い、現在SNAPに依存しているが、先月の政府閉鎖で支給が一時停止されたため、苦境に立たされた。「食料品の値段は法外だ。ほかに言いようがない。子どもたちの次の食事をちゃんと用意できるのかと思うと、本当に怖い。」と語った。
4カ月前に解雇された機械工トーマス・アベナンテさん(46)は、60件以上の職に応募したが面接すら受けられていない。「2万ドル(約310万円)あった貯蓄は半分に減った。ウォルマートのような大企業が巨額の利益を上げながら、従業員がフードスタンプに頼らなければならないのはおかしい」と批判した。

物価抑制に失敗、世論悪化…トランプ支持率も「急落」
生活費危機と景気減速はトランプ大統領を政治的に圧迫している。多くの世論調査で、物価上昇が米国民最大の関心事として浮上している。リアル・クリア・ポリティクスの調査では、大統領職務に対する支持率は1月の51%から43%へ低下し、経済分野での支持率も40%にとどまった。
トランプ氏は生活費問題の解決を掲げて当選したが、就任時と現在のインフレ水準に大きな差はなく、依然として連邦準備制度理事会(FRB)の目標を上回っている。
その結果、今月初めに行われたニューヨーク市長選とニュージャージー、バージニア両州の知事選では民主党が圧勝し、共和党内では危機感が高まっている。
トランプ政権は最近、牛肉やコーヒーなど一部食料品の関税引き下げや、医薬品価格の引き下げ交渉、ガソリン価格抑制のための原油増産策を進めているが、労働統計局によると食料品価格は依然として上昇しており、牛肉価格は前年比14%も上昇した。
トランプ氏の側近だった共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は「国民をガスライティングしている」と批判し、来年1月の辞任を表明。大統領は彼女を「裏切り者」と非難した。
「今すぐ食べていくのも厳しいのに、政治どころではない」…民主党も敬遠
一方、民主党も生活費問題を政治的に利用しようとしているが、有権者の記憶にはバイデン前政権下のインフレも強く残っている。今回の地方選挙で善戦したにもかかわらず、民主党の支持率は34%まで低下し、過去最低を記録した。
「政治家は争うばかりで、私たちに何の役に立つというのか」と語るのは、フードバンクで支援を受けたティファニー・チェイスさん(43)。「こんなに政治を嫌いになったことはない」と憤った。また、シェルターを運営するアンドリュー・ドゥーフさん(45)も「政治は現実とかけ離れている。今日仕事に行けなければ30日以内に生活が崩れる」と語った。
花屋のカマチョさんも「昨年はカマラ・ハリスに投票したが、今は政治への信頼を失った。私たちのような普通の労働者のために誰も何もしていないのに、投票に何の意味があるのか」と問いかけた。















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