特殊作戦部隊と、低高度での侵入作戦に用いるCV-22機約10機が移動
軍事評論家「作戦開始前の事前配備だ」

米国は今週初め、ベネズエラでの陸上攻撃も可能となる体制を整えるため、カリブ海地域に特殊作戦用の航空機や兵力、装備を大規模に移動させた。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルとニューヨーク・タイムズが23日、公開された航空機追跡データの分析と米軍高官らへの取材に基づいて報じた。
米国はすでにベネズエラに対し「海上封鎖(naval blockade)」に踏み切り、ベネズエラ産原油を積んだタンカー3隻を拿捕した。ただ、トランプ政権は「戦争行為」との批判を避ける狙いから、「海上検疫(naval quarantine)」という用語を用いている。ドナルド・トランプ米大統領はベネズエラ上空を「閉鎖空域」とみなし、空爆の可能性も排除していない。
トランプ大統領は22日、「現在、南米でこれまで配備した中で最大の艦隊を形成した」と述べ、「陸上でもまもなく同様のプログラムを始める」と語った。英紙フィナンシャル・タイムズや米軍事メディアは、カリブ海域に展開している米海軍戦力だけでも、世界の米海軍力の4分の1に相当するとの見方を示している。
米軍高官はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、米空軍特殊作戦司令部が運用する、低高度・高速での侵入が可能な垂直離着陸機CV-22オスプレイ(ティルトローター)10機余りが22日夜、ニューメキシコ州キャノン空軍基地からカリブ海方面へ飛行したと明らかにした。航空機追跡データによれば、フォート・スチュワート陸軍基地とフォート・キャンベル陸軍基地からも同日、最大77トンを積載できるC-17輸送機がプエルトリコに到着しており、兵員と装備を運搬したとされる。
CV-22が発進したキャノン空軍基地は第27特殊作戦飛行団の本部で、フォート・キャンベル基地には米軍の精鋭部隊とされる第160特殊作戦航空連隊と第101空挺師団が所在する。さらにフォート・スチュワートには第75レンジャー連隊第1大隊が配備されている。
第27特殊作戦飛行団と第160特殊作戦航空連隊は、高リスクの侵入・救出作戦を支援し、近接航空支援や戦闘支援を担う部隊だ。また陸軍レンジャーは空港の制圧などを担当し、最精鋭部隊とされる米海軍のシールズ・チーム6(Team Six)や米陸軍のデルタフォースを支援しつつ、精密な殺傷・逮捕作戦を遂行するとされる。

『ニューヨーク・タイムズ』も、直近1週間にC-17重量輸送機が16回以上、プエルトリコへ飛行したと、航空機追跡データを引用して報道した。これらの輸送機は米国内の基地だけでなく、日本からも移動したという。同紙は、軍用機の一部はオープンソースの追跡情報に表示されないため、実際の飛行回数はさらに多い可能性があると伝えた。
同紙はさらに、F-35A戦闘機の編隊、EA-18Gグラウラー電子戦機、HH-60W救難ヘリコプターなどが、すでに1万5,000人の兵力や空母、駆逐艦5隻が配備されている地域に追加展開されたとも報じた。
デービッド・デプトゥラ米空軍予備役中将はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、「これらの部隊は作戦開始前に事前配備されているもので、米政権がすでに行動方針を決定したことを示唆する」と指摘した。そのうえで「残る問題は最終目標が何かだ」と述べた。
一方、中南米地域を管轄する米南方軍の報道官は、特定部隊の移動についての確認を拒否したうえで、「装備と人員を定期的に循環させるのは標準的な慣行だ」と説明した。作戦保全の観点から、米軍の資産や兵力の移動・活動に関する詳細は公表しないとしている。
米国によるベネズエラ原油輸送タンカーの拿捕が続くなか、ベネズエラ経済は大きな打撃を受けている。ベネズエラの港では、拿捕を恐れる原油積載タンカーが出港できず、足止め状態にある。ベネズエラへ向かっていた一部のタンカーが途中で針路を変え、船主が原油積載契約を取り消す動きも出ているという。クリスティ・ノーム米国土安全保障長官は、12月20日に米沿岸警備隊がタンカーを拿捕する映像をSNSのXに投稿した。
昨年6月の世界銀行報告書によると、石油はベネズエラ輸出の78%を占め、石油関連の税収は政府総収入の61%を占める。ベネズエラ軍艦は原油や石油由来製品を積む船舶を護衛しているが、その範囲は領海と公海の境界までに限られる。
タンカー運航を追跡するウェブサイト「TankerTrackers.com」によれば、12月10日に違法タンカー「スキッパー号」が拿捕されて以降、ベネズエラ国営石油会社PDVSAが販売した原油を積み、ベネズエラ領海を離れて航行を試みたタンカーは2隻だけだった。
ベネズエラの石油生産は、1日当たり33万バレルから今年は約110万バレルへ増加傾向を示していたものの、トランプ政権の海上検疫開始後、大きく鈍化したという。
トランプ政権は、2018年の大統領選挙後に続くニコラス・マドゥロ・ベネズエラ大統領の政権を、不正選挙による違法政権だと位置付けてきた。2019年1月以降は、原油販売資金がマドゥロ政権に流れないようベネズエラの石油輸出を一方的に禁じ、ベネズエラ石油産業と協力する第三国企業にも二次制裁を科した。
これに対しマドゥロ大統領は、米国の禁輸措置は、世界最大級の埋蔵量を持つベネズエラの石油を奪おうとする試みだとして反発している。













コメント0