
中国の官製メディアと政治評論家らが最近、ゲーム用語「キルライン(一撃で倒せるほど弱った状態)」を使って米国批判に熱を上げている。これは高い失業率や貧困率による自国の若者たちの不満を外部に向けようとする動きだ。ホームレス・家計負債・麻薬中毒など競争国である米国内の社会問題を強調するため、若者層に馴染みのあるゲーム用語まで動員し始めた。
中国が実際に自国で悪化する経済問題の積極的解決より、米国の弱点を歪曲・強調することで、将来世代に自国の体制優位性を刷り込み、指導部への批判を事前に封じ込めようとしているとの指摘がある。

「最後の一撃」で倒れるグロッキー状態のキルライン…ゲーム用語から政治的レトリックへ
先月、「ニューヨーク・タイムズ(NYT)」、英国の「エコノミスト」など海外メディアは、中国の官製メディアと論評家らが米国の貧困問題に言及する際、キルラインという用語を繰り返し使用していると指摘した。この表現は昨年11月、動画共有プラットフォーム「bilibili」で、ある中国のクリエイターが米国滞在中に目撃したという貧困層の事例を紹介する際に初めてゲーム外の文脈で使用された。彼は動画で、キルラインの上では生活が続くが、その下にはハロウィンの夜に食べ物を求めて戸を叩く子供たち、低賃金で飢える配達労働者、治療費を払えず退院させられる負傷労働者など貧困層がいると主張した。
その後、キルラインは通常の生活に戻ることが不可能な臨界点に達した米国人の悲惨な生活と矛盾する資本主義の論理を比喩的に描写する表現として定着した。当初は中国国内のSNSで広まったが、今や中国の官製メディアと政治評論家までがキルラインのレトリックを繰り返し使用し始めた。昨年末、中国共産党の機関紙「北京日報」や「南方日報」などがWeiboプラットフォームでキルラインを集中的に強調し、「観察者網」は2週間足らずの間に米国の貧困、医療、労働環境を描写し、キルライン用語を使用した論評を12本以上掲載した。
米国の社会問題を強調して自国民の関心をそらす中国の宣伝戦略は文化大革命時代から広く使われてきたが、キルラインのように若者が先に使っていた表現を新たな文脈で借用したケースは異例だという分析が出ている。「NYT」はキルライン表現の力が単純さにあると指摘した。様々なゲームを楽しむ中国の若者層が容易に理解できる単純な比喩を通じて、米国をより効果的に批判できるというわけだ。
実際には中国国内の貧困と社会的格差が深刻化…メディア統制で隠蔽
このようなキルラインのレトリックの背後には、若者の失業・貧困など日増しに悪化する中国国内の経済問題を隠蔽しようとする意図があるとの指摘がある。
昨年、世界銀行が発表した貧困見通し報告書によると、2021年に世界銀行が定めた中国国民の貧困線(1日8.3ドル・約1,300円)を下回る中国人の数は、全人口14億人のうち約3億人に上ったという。こうした状況下で中国経済は更に勢いを失っている。中国国家統計局によると、昨年第1四半期に5.4%だった成長率(前年同期比)は第2四半期5.2%、第3四半期4.8%に続き、第4四半期には4.5%まで落ち込んだ。また、先月23日の国家統計局発表によると、昨年12月の都市部16~24歳(各級学校在学生を除く)の失業率も16.5%に達した。4か月連続で低下傾向にあるものの、同期間に10.4%を記録した米国の若年失業率と比べれば高い数値だ。
また、実際の中国の経済問題が米国ほど公に知られていないという指摘もある。米国のホームレスが路上に出るのとは異なり、中国の都市部では当局が物乞いやホームレスを厳しく管理しているため、貧困層の生活が日常的にほとんど目に入らない。また、政府が官製メディアを統制しているため、中国人自身も国内の貧困問題にアクセスできないという批判も出ている。中国の都市住民のほとんどが米国など海外メディアを通じてしか、自国内の貧困層の存在や彼らの生活を間接的に知ることができないというのだ。若者の失業に関しても、中国国家統計局は若年失業率が2023年6月に過去最高の21.3%まで跳ね上がると、統計発表を突如中止した経緯がある。
米国の問題を強調し中国の自尊心を高める戦略…米国に自国の問題を見つめ直す機会も
このため、中国当局がこうした自国の問題に対する若者層の反発や批判を事前に封じ込めるためにキルライン表現を執拗に使用しているという批判がある。競争国の欠点を強調して中国体制の優位性を宣伝するだけでなく、自国民の情緒的安定のために「米国は崩壊寸前だが、中国はまだ耐えられる」という歪んだメッセージを伝えているというのだ。一部では、こうした試みの背景に「米国の地位低下は中国の国家的自尊心と結びついている」という信念があるとの分析まで出ている。
ただし、キルラインが米国の社会問題を反面教師として中国の社会保障システムを再整備しようとする意図の表現だという見方もある。誰もが懸命に働けば速やかに効率的に成功できるという「アメリカンドリーム」の裏に潜む弊害を浮き彫りにし、中国が掲げる社会主義的セーフティネットを再点検し、綿密に作り直そうという趣旨だというのだ。また、キルラインがむしろ米国政府がこれまで当然視し無関心だった社会問題を外部の視点から気づかせる助けになるという主張もある。これにより、米国が自国民の生活の質を向上させる方策について議論の場を開くのにキルラインのレトリックが役立つという立場だ。













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