
戦争という世界的な危機状況では、国際社会で安全通貨と認識されてきた円は本来急騰(円高)するはずだが、「ドルに対する円安」が続いている。アメリカとイスラエルによるイラン攻撃で中東情勢が緊迫する2026年3月現在、外国為替市場では円がむしろ24年ぶりの安値水準を更新するなど、弱い動きが続いている。
リーマン・ショックや東日本大震災の際には、リスク回避の動きから円買いが急増し円高が進んだが、今回の事態ではそうした兆候はほとんど見られない。毎日新聞は16日付の記事で、みずほ銀行のチーフマーケットエコノミストの分析を引用し、この異例の現象の背景として日本の対外純資産構造の変化を指摘した。
円は長年、「有事の円買い」の象徴とされてきた。2008年のリーマン・ブラザーズ破綻時には、世界的な株価下落の中で安全資産志向が強まり、円は1ドル=110円台まで急騰した。特に2011年の東日本大震災時には、日本企業が海外資産を売却して得た資金が大量に円に還流し、わずか1日で1円近く円高が進むという異例の動きも見られた。これは日本の巨額の対外純資産(海外資産‐負債)が安全通貨としての地位を支えていたためだ。
◇日本の対外純資産、株式・債券から現金化が難しい直接投資へ移行
しかし資産構成は大きく変化した。2024年末時点の日本の対外純資産は533兆500億円と、ドイツに34年ぶりに首位を譲ったものの依然として世界第2位の規模を維持している。ただ、2010年代半ばまでは海外株式や債券などの証券投資が対外純資産の50%以上を占め、危機時には売却して円資金に戻しやすかったが、過去10年間は企業の合併・買収(M&A)など直接投資の比率が急増し、2024年時点で約60%に達した一方、証券投資は30%未満に低下した。

直接投資は工場建設や持分取得など長期的かつ固定化された資産であるため、危機時に現金化することが難しい。みずほ銀行の専門家は「こうした構造変化により、2013年頃から有事の際に円が買われる現象は完全に消滅した」と断言する。実際、2025年には日本企業の海外直接投資収益が初めて300兆円を突破し、アメリカへの投資比率は26%と過去最高を記録した。結果的に、かつてのように世界的危機の際に資金が円に流入する誘因は消失した。
◇円安の長期化
今回の事態は、この変化を一層鮮明に示している。2026年2月末にアメリカとイスラエルがイランを空爆したことで原油価格は急騰し、地政学的リスクも高まったが、円はドル高の流れに押され、軟調な推移が続いた。投資家は金や米ドル・スイスフランなどの伝統的な安全資産へ資金を退避させ、円を敬遠した。毎日新聞は「戦争危機にもかかわらず、円高ではなく円安が常態となった特異な現実だ」と指摘した。
背景には、日本銀行の極端な低金利政策と、トランプ政権再選後のドル高が重なったことがある。円キャリートレード(円売り・高金利通貨買い)が再び活発化し、円売り圧力が強まった。かつては対外純資産のうち証券投資の比重が大きく、危機時には自動的に円高要因となっていたが、現在は直接投資中心の構造がそれを阻んでいる。専門家は「対外純資産の規模が回復しても、資産構成の変化がなければ安全通貨としての地位の回復は不可能だ」と分析する。
この変化は日本経済にとって重大な挑戦となっている。円安は輸入物価の急騰を通じてインフレ圧力を強め、企業収益を圧迫する。日本政府は海外投資の多様化や為替安定策を検討しているものの、効果は不透明だ。世界の金融市場における円の位置付けが根本的に変化した現在、戦争のような有事においても円高を期待できないという厳しい現実が明確になりつつある。
















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