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「中国とロシアの北極航路を許すな」同盟まで揺さぶるトランプのグリーンランド野心

梶原圭介 アクセス  

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ドナルド・トランプ米政権によるグリーンランドを巡る野心が、北極圏を一気に世界地政学の最前線へと押し上げている。米国は7日、同盟国デンマークの自治領であるグリーンランドの購入を、正式な外交政策目標として掲げた。トランプ大統領が第1次政権時代から言及してきたグリーンランド編入構想は、当初は特有の「ディールの技術」や「不動産業者的なブラフ」と受け止められていた。しかし、最近のベネズエラ空爆を経て、具体的な安全保障・軍事的選択肢と結び付いたことで、大西洋同盟を根底から揺るがしかねない火種として浮上している。米政府が、NATO(北大西洋条約機構)加盟国の領土を対象に、単なる買収の意思表明を超えて軍事的手段にまで言及したのは前例がない。欧州の外交関係者の間では、これを第2次世界大戦後に築かれた国際秩序への重大な挑戦と受け止める声が広がっている。

マルコ・ルビオ米国務長官は7日、議会で記者団に対し、「トランプ政権の目標はグリーンランドの購入だ。来週、彼ら(デンマーク)と会い、協議を行う」と述べた。ルビオ長官は「これは当初からトランプ大統領の意図であり、国家安全保障の観点からグリーンランドを確保しようとしている」と説明した。これに先立ち、ホワイトハウスのカロリン・リーヴィット報道官は、グリーンランド問題に関連して「最高司令官が武力を行使することは、常に選択肢の一つだ」と発言。この発言は、米軍がベネズエラでニコラス・マドゥロ大統領の拘束作戦を実行した直後に出されたものであり、単なる威嚇を超えた実体的な脅威として受け止められている。

中国の「北極シルクロード」とロシア核潜水艦を同時封じ込め

米国が同盟国の反発を承知しつつグリーンランドに執着する背景には、北極圏を巡る覇権競争と安全保障戦略の再編がある。トランプ大統領は4日、「グリーンランドは国家安全保障上、不可欠だ」とした上で、「ロシアや中国の船舶がグリーンランド周辺に多数展開している」と主張した。

専門家らは、グリーンランドを北大西洋防衛の要衝と位置付ける。グリーンランド(G)、アイスランド(I)、英国(UK)を結ぶ、いわゆる「GIUKギャップ」は、ロシア北方艦隊の核潜水艦が大西洋へ進出する際、必ず通過しなければならない海域だ。米国がこの地域を掌握すれば、ロシアの進出を根本から封じ込めることが可能となる。すでに米軍は、グリーンランド北西部のピトゥフィク宇宙基地にミサイル早期警戒レーダーを配備している。トランプ政権が構想する多層ミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム(GoldenDome)」を完成させる上でも、北極圏における監視資産の拡充は不可欠とされる。

資源と航路の先取りも、米国を突き動かす重要な要因だ。グリーンランドの氷床下には、「先端産業のコメ」とも呼ばれる希土類(レアアース)をはじめ、石油や天然ガスが大量に埋蔵されていると推定されている。重希土類の埋蔵量は約3,850万トンで、世界全体(約1億2,000万トン)の約3分の1に相当する。トランプ政権は、世界の希土類供給網を掌握する中国を牽制するためにも、グリーンランドを確保する必要があるとの立場だ。中国が北極航路を活用し、経済・軍事的影響力を拡大しようとする「北極シルクロード」構想を前面に掲げる中、グリーンランドを失えば将来の資源戦争で敗北しかねないとの危機感が背景にある。トランプ大統領がグリーンランドを単なる領土ではなく、「地球上で最高の不動産資産」であり、経済と安全保障を兼ね備えた複合資産と捉えている理由でもある。

確保に向けた三つのシナリオ

確保のシナリオは大きく三つある。第一は直接購入だ。米国は1867年、国務省の報告書でグリーンランド購入を検討しており、1946年にはハリー・トルーマン大統領が、デンマークに1億ドル(約157億円)相当の金塊を支払ってグリーンランドの購入を提案した前例もある。ルビオ長官が「新しい発想ではなく、歴代大統領も検討してきた案件だ」と強調したのは、こうした歴史的文脈を根拠に正当性を確保しようとする狙いとみられる。

しかし、デンマーク政府が「グリーンランドは売却の対象ではない」と強く拒否する中、「独立後の連合」という方式が代替案として浮上している。米情報機関は、グリーンランド住民の約90%を占めるイヌイットが、デンマークからの分離独立を志向する動きを綿密に把握しているとされる。トランプ氏の側近らが最近のテレビ番組で「デンマークがグリーンランドを支配する権利は何か」と発言し、自治意識を刺激しているのも同じ文脈だ。グリーンランドが独立した場合、米国がマーシャル諸島やパラオなど太平洋島嶼国と結んでいる「自由連合盟約(COFA)」モデルを適用し、国防・安全保障権限を引き受ける代わりに、莫大な財政支援を行う可能性がある。

最も懸念されるのは軍事介入シナリオだ。米政治専門メディアの「ポリティコ」は軍事専門家の話として、「人口が約5万7,000人に過ぎず、独自の軍事力を持たないグリーンランドを制圧することは、軍事的には30分もかからない」と報じた。ただし、NATO加盟国への侵攻という政治的負担を考えれば、実際には経済的圧力が先行する可能性が高い。トランプ大統領が、デンマークの主力企業であるノボノルディスク社などに懲罰的関税を課すと威嚇し、交渉に持ち込む手法が想定されている。

欧州の反発と米国内の波紋

欧州の困惑は深まっている。英国やフランス、ドイツなど欧州7カ国は共同声明で「グリーンランドは住民のものだ」とし、デンマーク支持を表明した。アントニオ・コスタ欧州理事会常任議長も「国際法違反は容認できない」と批判した。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は「米国の行動は、私たちが知る国際秩序の崩壊を意味する」と強く反発した。デンマークのメディアは、同国国防省が、1952年に定められた「先制反撃後に報告する」交戦規則が現在も有効であり、グリーンランド駐留部隊にも適用されることを確認したと報じている。

米国内でも波紋は大きい。共和党の重鎮であるミッチ・マコーネル上院議員は、「同盟国の領土を武力で奪うという発想は、戦略的な自傷行為だ」と批判した。一方、共和党のマイク・ジョンソン下院議長は、「戦略的防衛構想は『米国第一主義(アメリカ・ファースト)』の核心だ」として政権を擁護した。

米議会にはすでに、政府にグリーンランド購入交渉の権限を付与する「メイク・グリーンランド・グレート・アゲイン法(MakeGreenlandGreatAgainAct)」などの関連法案が提出されている。トランプ大統領は、米国史上最大の領土拡張である「ルイジアナ買収(1803年)」の神話を再現する象徴的意味合いから、先月、ジェフ・ランドリー・ルイジアナ州知事を「グリーンランド特使」に任命。デンマーク政府を介さず、グリーンランド自治政府との直接接触を試みている。

梶原圭介
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