
アラブ首長国連邦(UAE)がパキスタンに対し、今月末までに35億ドル(約5,600億円)の借款を返済するよう突然求めたことで、パキスタンでは国家デフォルト(債務不履行)への懸念が強まっていると、フィナンシャル・タイムズ(FT)が28日に報じた。両国は、イスラム教スンニ派という宗教的な共通性を背景に、互いを「兄弟」と呼ぶほど長く緊密な関係を築いてきた。だが、不安定な休戦が続く米国とイランの戦争終結交渉でパキスタンが仲介役に乗り出したことで、この戦争を機にイランと敵対関係に入ったUAEの怒りが噴き出し、「兄弟関係」に亀裂が広がった。
パキスタンは世界第5位の人口を抱える非公式な核保有国だが、1人当たりの国内総生産(GDP)はUAEの3%にとどまり、両国の経済格差は極めて大きい。UAEが返済を求めた35億ドルは2023年前後に支援した資金で、パキスタンの外貨準備高160億ドル(約2兆5,500億円)の2割を超える規模に当たる。このため、「UAEがパキスタンを国家デフォルトの恐怖へ追い込み、経済的な命綱を握って揺さぶっている」との見方まで出ている。
UAEはオイルマネーで築いた巨額の富を背景に、脆弱なパキスタン財政を支えてきた。一方のパキスタンは、自国から送り出した低賃金労働者によってUAEのインフラ建設を下支えし、外貨を稼いできた。こうして両国は相互補完の関係を築いてきたほか、UAEは慢性的な経済難に苦しむパキスタンの対外信用を支える役割も担っていた。
パキスタンは2019年、国際通貨基金(IMF)から70億ドル(約1兆1,200億円)の支援を受けた後も経済が立ち直らず、追加支援を巡ってIMFと協議を続けてきた。これに対しIMFは、友好国から安定的な外貨を確保することを条件に掲げ、パキスタンの要請にUAE、サウジアラビア、中国などが応じた。とりわけ35億ドルを拠出したUAEは、返済時期を2027年以降へ繰り延べており、この条件がパキスタンのIMF支援継続を支える土台になっていた。
それにもかかわらず、UAEの要求通りに早期返済が進めば、IMF支援の前提そのものが揺らぎ、最悪の場合はデフォルトにまで発展しかねないとFTは伝えた。パキスタンの外貨準備高は韓国の3.8%にとどまるとされ、今回の返済要求はパキスタンだけでなく、IMF関係者にとっても想定外の極端な措置だったという。
UAEとパキスタンは長年の同盟国だった。UAEが1971年に英国から独立した当時、UAE空軍の初代参謀総長を含む5人がいずれもパキスタン国籍だった。パキスタン国営のパキスタン国際航空は、創業初期のエミレーツ航空に航空機や操縦士、実地訓練などを提供した経緯がある。さらにUAEは、パキスタンが外貨危機に陥るたびに数十億ドル規模の融資や石油代金の支払い猶予、直接支援を続けてきた。現在も約190万人のパキスタン人がUAEで暮らし、いわゆる3D業種とされる低賃金労働に従事している。
それぞれの強みで相手の弱みを補ってきた両国関係は、米国、イスラエルとイランの戦争を機に大きく変わった。イランが、米国の軍事作戦を容認した湾岸アラブ諸国への報復攻撃に踏み切ると、UAEは集中的な標的になった。UAEはほかの湾岸諸国に比べ、イランのドローンとミサイルによる攻撃を2倍以上受けたとされる。これにより600人余りが死亡し、2,500人余りが負傷した。アブダビやドバイでは製油施設や空港など主要インフラも破壊され、「中東の火薬庫」にあっても揺るがない安全国家というブランドは深刻に損なわれた。UAE内部でも、国家の存立基盤を揺るがす水準の経済損失だとの見方が出ている。
こうした前例のない安全保障危機のなかで、UAEは「兄弟国」パキスタンの消極的な対応に強い不満を募らせたと伝えられている。外交ルートを通じ、パキスタンに対して「イランにもっと強硬な姿勢を取るべきだ」と求めたという。ところが、しばらく静観していたパキスタンは、その後イランと米国の間で仲介役を自任した。FTによると、これを機にUAEの対パキスタン感情は不満から怒りへと変わった。
長く中国と接近し、米国とはぎくしゃくした関係が続いていたパキスタンが仲介国として前面に出たことで、米国のドナルド・トランプ大統領が公の場で称賛と謝意を示すほど、米・パキスタン関係には追い風が吹いた。一方で、半世紀以上にわたり密着してきたUAEとパキスタンの関係は急速に冷え込んだ。英国のシンクタンク、チャタムハウスのニール・クィリアム氏は、UAEにとって仲介に立つこと自体が反対側に回ることを意味すると受け止められると分析している。
最近表面化したサウジアラビアとUAEの対立に、パキスタンが巻き込まれたとの見方もある。産油国であり、湾岸の君主制国家でもある両国は、長く一体のような関係を保ってきたが、ここ数年は地域の主導権を争うライバルへと変わった。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子兼首相が、石油依存の引き下げと外国投資、観光産業の拡大を進めるなか、すでに金融と観光の拠点となっているUAEの取り分を奪わなければならない事情があるためだ。
アラブ諸国とイランの代理戦争の様相を帯びるイエメン内戦でも、同じ陣営にいた両国は最近、スンニ派内部で異なる勢力を支援し、軍事面でも対立を深めた。こうしたなか、昨年9月にパキスタンがサウジアラビアと防衛条約を結んだことで、UAEはサウジアラビアとパキスタンの双方を自国の安全保障上の脅威と見なした可能性があるとの分析も出ている。
米国とイランの戦争終結交渉が長期の膠着局面に入れば、経済的に脆弱なパキスタンはさらに追い込まれるとの見方が強い。とくに、イランとの交渉に参加したエジプトとトルコもUAEの巨額資本への依存度が高く、次の標的になる可能性まで取り沙汰されている。














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