
世界各国で徴兵制復活の動きが加速する中で、徴兵制を維持している国の中には、独自の方式を採用している例も存在する。徴兵制と志願制を組み合わせた抽選方式や、一定の金額を納付することで兵役が免除される制度などが存在し、地政学的条件や軍運用の効率性を踏まえた仕組みとして高く評価されている。
タイでは、満21歳以上の男性を対象に毎年地域ごとに実施される「抽選」によって徴兵対象者が選定される。抽選には赤と黒のカードがあり、赤を引けば2年間の現役入隊、黒を引けば免除となる。なお、志願入隊の場合は高卒以上であれば1年間(中卒以下は2年間)の服役で済む。
抽選の確率は毎年の必要人員によって変動するが、一般的には赤(入隊)と黒(免除)の比率は2対8程度である。昨年は必要人員8万5,000人に対し、抽選で選ばれたのは4万人にとどまり、対象者の1割台半ばが徴兵された状況である。
メキシコもタイと同様、抽選で決まる兵役制度を採用している。18歳以上の男性が対象で、黒玉を引けば免除、白玉を引けば兵役に就くことになる。ただし、伝統的な常勤兵役ではなく、1年間の週末訓練に参加すれば兵役義務を遂行したとみなされる仕組みとなっている。海外在住のメキシコ人男性については、くじ引きを経ずに自動的に免除される措置が取られる。訓練負担が軽い分、免除率はタイと比べて大幅に低い。現地報道によると、今年の抽選では対象者の9割以上が兵役義務を遂行した扱いとなった。かつては白玉が4割程度であったが、近年はその倍以上に跳ね上がっているという。
メキシコでは、強力な軍備よりも軍の政治的中立性を重視する国家観から、伝統的な徴兵制度は適さないと判断され、この特異な兵役制度が維持されている。また、製造業やサービス業が中心の経済構造において、若年男性が長期間兵役に就くことで生じる経済的損失が大きいことも制度設計に影響したとされている。
トルコでは原則6カ月の徴兵制を採用しているが、政府に一定額を納付することで免除が可能となっている。これは言わば「兵役税」に相当し、約1カ月間の基礎軍事訓練を受ければ兵役義務を果たしたと認められる。北はロシア、東はシリアやイラクと国境を接するなど、常に安全保障上のリスクを抱える一方、全面的な志願制は維持コストが高いことが背景にある。
このため、義務兵役を基本としつつ、政府の財源確保という観点から金銭による免除制度が導入された経緯がある。兵役期間もかつては1年以上であったが、2019年の大改革により原則6カ月(延長可能)へと短縮され、若年層の失業緩和や徴兵制度の柔軟性向上を図る狙いがあったとされている。













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