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【世界初の危険な実験】メキシコで裁判官を国民が直接選挙…麻薬カルテルによる「司法乗っ取り」の懸念も

荒巻俊 アクセス  

引用:Depositphotos

6月1日、メキシコで地方選挙とともに世界初の「全国裁判官直接選挙」が実施される。有権者は連邦最高裁判事9名と各級の裁判官・検察官872名、計881名を一度に選出し、任期は6年だ。昨年9月、与党の国民再生運動(MORENA)主導で憲法改正が可決され、実現に至った。

政府と与党は司法不信を主な理由に挙げる。過去30年間、犯罪の90%が通報すらされず、起訴された事件の有罪率もわずか14%だ。オブラドール前大統領は司法を「救いようのない腐敗組織」と非難し、後任のシェインバウム大統領も「汚職撲滅の特効薬」と称賛する。実際、ピュー研究所の調査では国民の66%が直接選挙に賛成し、司法アクセスの低い農村部ほど支持率が高い。国民再生運動は「新しい血が腐敗を一掃し、司法の民主化を加速させる」と宣伝している。

しかし、「抑制と均衡」が崩壊するという警告も少なくない。選挙管理委員会(INE)は応募者1万8,000名を書類審査と評価を経て3,422名に絞り込んだ。予備段階から政府の影響力が働いたとの批判が出ている。当選後、再選を狙う裁判官たちが権力と世論を意識して判決を下す可能性を懸念する声も大きい。ノーマ・ピーニャ最高裁長官は「独立した良心とポピュリズムの間に危険な亀裂が生じている」と警告した。

麻薬カルテルによる「司法の乗っ取り」の可能性が最大の懸念材料だ。フィナンシャル・タイムズは「犯罪組織が金と暴力を総動員して望む裁判官を擁立できる」と分析している。人権団体のセーフガード・ディフェンダーズは候補者を分析し、「極めて危険」な19名を公表した。その中には2015年に米国で麻薬密輸で服役したレオポルド・チャベス氏と「エル・チャポ」グスマンの弁護士、シルビア・デルガド・ガルシア氏が含まれている。カルテルが支配する北部地域では候補者登録の現場で脅迫や銃撃事件が報告された。

海外の前例も不安要素だ。ボリビアは2011年から最高裁判事を直接選挙で選出しているが、投票率の急落と無効票の増加により司法の権威が揺らいでいる。ポーランドでは与党が司法人事委員会を掌握しようとしてEUの制裁を受け、イスラエルのネタニヤフ政権による最高裁判事の任命権拡大の試みも違憲判決で阻止された。

司法の民主化なのか、権力と犯罪による司法の支配なのか。メキシコの危険な実験が、世界の「抑制と均衡」論争の試金石として注目を集めている。

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