
米国でメディケイドサービスに頼って生活の質を維持してきた重度障害者たちが、不安を募らせているという。
ドナルド・トランプ米政権が約1兆ドル(約147兆6,377億3,000万円)規模の予算削減を推進していることから、障害者やその家族にとって大きな支えとなってきたメディケイドサービスが、既存の水準を維持できなくなる可能性が指摘されていると、ニューヨーク・タイムズ(NYT)が21日(現地時間)に報じた。
メディケイドは、一般的に低所得層向けの医療保険として知られているが、実際には所得にかかわらず、障害者にも医療・介護サービスを提供している。
なかでも、「地域社会基盤の在宅介護サービス(HCBS)」はメディケイドの主要な支援制度の一つで、対象者を施設などで一括管理するのではなく、介護士や看護師が自宅を訪問してケアを行う仕組みとなっている。
サービス対象者が施設外で自宅から学校や職場に通い、地域社会の中で健常者と共に生活できる点が、この制度の大きな利点とされている。
メディケイドでは、訪問看護師の人件費や医療用の消耗品の費用などが支援される。また、特定条件で受けられる特別支援制度「ウェイバー(waiver)」を通じて、より広範な支援を受けられる仕組みもある。こうした支援がなければ、障害者本人や家族が負担しきれない莫大な経済負担を強いられることになるという。
メリーランド州で障害者人権活動家で、自身もパーキンソン病由来の筋肉異常を患うロブ・ストーン氏はNYTの取材に対し、「ただ生きているだけの人生にはしたくない」と語り、「メディケイドのおかげで、自分は社会の中で自立した生活ができている。人生の主導権は自分にあるべきだ」と述べた。
米国の保健医療研究機関「KFF」によると、このHCBSサービスの対象者は全米で約450万人に上るという。
仮にメディケイド予算削減の影響が現実のものとなれば、彼らの生活に様々なかたちで支障が出ることが懸念されている。

州政府がHCBSのサービス提供時間を短縮したり、ウェイバープログラムを廃止したりする可能性があるほか、看護師や介護職員の賃金が引き下げられるおそれもある。さらに、新たな対象者の認定基準を厳格化したり、プログラムへの登録手続きを遅らせたりすることも予想される。
一方、トランプ政権は、今回の予算削減がHCBSの対象となる重度障害者には影響を及ぼさないと主張している。
各州政府の裁量によって予算の再配分が可能であり、連邦からの支援が減っても十分に対応できるというのがその理由だという。
ホワイトハウスの政策補佐官であるティオ・マーケル氏は、今回の予算削減がHCBSサービスに悪影響を与えるという見方に対し、「意図的な世論誘導にすぎない」と反論している。
しかし、専門家の間では異なる見解も広がっている。
ハーバード大学のベンジャミン・サマーズ教授は、州の調整だけで連邦予算の穴を埋められるという政権の見解について、「それは希望的観測に過ぎない」と一蹴した。
NYTは、メディケイドの支援を受けている患者のいくつかの事例を紹介している。
ユタ州に住む10歳の希少疾患患者は、24時間の集中ケアが必要な状態にあるという。人工肛門用のパウチは1日に何度も交換が必要で、体外に露出している臓器の状態も常に確認しなければならない。共働きの両親にとっては、メディケイドの支援がなければ日々のケアを続けることが難しくなるとされている。
また、皮膚疾患を抱える4歳の患者は、ウェイバープログラムを通じて感染予防用の医療用品や理学療法、作業療法などを受けているという。
さらに、ミトコンドリア病のためチューブで栄養摂取を行っている8歳の患者は、担当の看護師が休暇を取る日には学校へ行けなくなる状況にあるという。
NYTはこれらの事例を通して、障害者や障害のある子どもを育てる家族にとって、メディケイド予算がどのようなかたちであれ削減されることになれば、生活に深刻な影響が及ぶ可能性があると警鐘を鳴らしている。
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