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「中国を入れろ?ロシアは嫌だ?」──50年積み上げた核秩序を壊した“大国のわがまま”

織田昌大 アクセス  

出典:ロイター通信
出典:ロイター通信

世界の核兵器の約90%を保有するロシアと米国が、核弾頭と発射手段の数を制限することで合意した「新戦略兵器削減条約(新START)」が、今月5日に失効する。新STARTの履行は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、米露関係の悪化に伴い揺らぎ始め、現在まで後続協定の進展は見られない。国際社会では「冷戦時代から50年以上維持されてきた米露間の制度的な『核の安全弁』が消失する」と指摘され、「今後、混乱した『核軍備競争』に中国などが参入し、国際安全保障環境が大きく不安定化する可能性がある」と懸念が示されている。

◇50年にわたり続いた米露の核統制

米露間の核統制は、長年にわたり国際的な核秩序の中核を担ってきた。冷戦時代、キューバ危機(1962)で核戦争寸前にまで追い込まれた米国とロシア(当時のソ連)は、1972年に第一次戦略兵器制限交渉(SALT I)を締結。その後もSALT II(1979)、第一次戦略兵器削減条約(START I、1991)、START II(1993)、戦略攻撃力削減条約(モスクワ条約、2003)など、相互の核兵器制限・削減プログラムを50年以上にわたり進めてきた。

2010年、バラク・オバマ前米大統領とドミトリー・メドヴェージェフ前露大統領がプラハで署名した新STARTは、両国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機などの核発射手段を700基、搭載する核弾頭を1,550個に制限することを定めた。さらに、両国核施設の年間18回の現地査察、年2回の兵器・施設データ交換、ICBM・SLBMの年間5回の情報交換なども盛り込まれていた。この結果、1980年代に最大7万個に達していた世界の核弾頭数は1万2,000個まで減少し、米露が互いを「予測可能な範囲」に置くことで、「戦略的安定」というバランスを保つことが可能となった。

しかし、2022年のロシア・ウクライナ戦争勃発により米露関係が悪化すると、新STARTも大きな打撃を受けた。2023年、ウラジーミル・プーチン露大統領が「米国など西側諸国がウクライナを支援し、ロシアに敵対行為を行っている」として新STARTの停止を宣言すると、米国も核兵器情報をロシアに提供しない方針を示した。この時点から、核施設査察や情報共有など新STARTの主要内容は事実上、形骸化した。

昨年9月、プーチン大統領は「新STARTを1年延長する意向がある」と述べたが、ドナルド・トランプ米大統領は先月、「ニューヨーク・タイムズ」とのインタビューで「期限が来れば終了する」と語った。ロシア・ウクライナ戦争以降、互いを信頼できなくなった米露が、自国に有利な新たな「核秩序」を構築しようとしているとの分析もある。

◇中国参加の新協定は可能か

米国内では、新START終了を契機に、宇宙配備ミサイル防衛システムなどを通じて圧倒的な核優位を確立すべきだという声が強まっている。アーニャ・ピンク米国防分析家は最近、議会調査局(CRS)の報告書で「米国内では、協定延長が米国に戦略的に有益かどうかで意見が分かれている」と指摘した。50年以上続いた核軍縮協定が米国の戦力増強の足かせになったとの見方だ。

ロシアも「あらゆるシナリオに備えている」とし、「サタン2」と呼ばれる次世代ICBMや、戦略爆撃機搭載の長距離巡航ミサイル「キンジャル」、中距離弾道ミサイル「オレシュニク」など、新たな戦力を開発中だ。両国とも「相手を信頼できない」として核兵器開発に拍車をかける悪循環に陥っている。旧ソ連出身の核交渉者ニコライ・ソコフ氏は「新協定がなければ、両国は最悪の事態を前提に行動せざるを得ない」と述べている。

今後、新STARTに代わる新たな核管理体制の展望は不透明だ。米国は「新協定を結ぶには中国を必ず含めるべきだ」という立場を取る。米国が新STARTに縛られている間、中国は自由に核戦力を強化してきた。実際、米国防総省は最近の報告書で「中国の核弾頭は2030年までに1000個以上に増加する」と指摘し、「モンゴル国境付近のサイロ地帯に、固体燃料型の東風-31(DF-31)ICBMを100基以上配備している可能性が高い」と明記した。トランプ大統領もNYTのインタビューで「より良い協定を作るつもりだ。中国、ロシア、米国が可能な限り非核化を進めるのが望ましい」と述べ、中国の参加を直接的に言及した。

しかし、中国はこれまで自国の核戦力が米露に比べ大幅に劣ることを理由に、同様の削減義務を拒否してきたため、米国の構想に応じる可能性は低い。ロシアも中国の参加には消極的で、むしろ新たな軍縮交渉には「核保有国であるフランスやイギリスも参加すべきだ」と主張している。

◇グローバルな核競争時代も到来か

米露間の核管理システムが完全に崩壊すれば、両大国だけでなく、中国・イギリス・フランスなどの公式核保有国や、北朝鮮などの非公式核保有国も核軍備競争に参入する可能性がある。エド・マーキー米上院議員(民主党)は「米国が新STARTの制限を超えて核開発を進めれば、ロシアも中国も同じ行動に出るだろう」と述べ、「私たちが必要とせず、勝つこともできない新たな軍備競争が始まる」と指摘した。メドヴェージェフ前露大統領も最近のインタビューで、「新STARTが終了すれば核保有国はさらに増える。一部の国は核兵器保有が最適な選択だと判断するだろう」と語った。

こうした「グローバル核競争」が本格化すれば、朝鮮半島の安全保障も直撃を受ける恐れがある。専門家は「米韓同盟に基づく既存の拡張抑止だけでなく、核開発を含む『プランB』など戦略的な備えが急務だ」と指摘している。

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